『風が吹くと桶屋が儲かる』と言いますが、この場合は少なくとも桶屋さんが儲かるのだから良いでしょう。
しかし鎮痛剤の使用で、狂犬病が増えるというのは関係者の誰にとっても良い話ではありません。
もちろん鎮痛剤と狂犬病は、『風⇒桶屋』と同様、ダイレクトにつながっている話ではありません。
ハゲタカってどんな鳥?
『ハゲタカ』というと悪者のイメージが強いでしょう。
「ハゲタカのようなガメツイ奴」
とか
「ハゲタカファンド」
とか。
しかし実はハゲタカという鳥は存在しません。
いわゆる『ハゲタカ』と呼ばれている鳥はタカ科のハゲワシです。
確かにハゲワシは死肉を食べます。
いやほぼ死肉しか食べません。
考えようによっては、屠殺後の肉しか食べない私たちと似ています。
ハゲワシ絶滅の危機!
その理由が私たちの身近にあるアレ
ただ私たちと違い、煮たり焼いたりしないのはもちろん、腐りかけた肉も食べるので胃酸のpHが0~1とハンパなく強い酸性です。
(ちなみに人間の胃酸はpH2程度。食酢でpH2.4くらいです)
その強力な胃酸のお蔭で食中毒を起こすこともなく、野生動物の死骸を大自然に返す(食べて消化し、土に返す)重要な役割を担っています。
ガメツイのではなく、自然循環になくてはならない仕事をしているのですから、人間世界での言われようは、気の毒なくらいです。
ところがこのハゲワシはご存じのように、世界中で絶滅の危機にあります。
インドに生息するベンガルハゲワシに至っては、ある時から野生個体種が急激に減り、現在は99%減。
絶滅目前です。
よく野生動物の絶滅には、「毛皮を求めて乱獲」とか「環境破壊」など、人間が関与する原因が少なからずありますが、その中でもこのハゲワシに降りかかった災難は、特筆すべき理由があります。
頭痛・腰痛・発熱にお馴染みのあの薬
飲み薬・座薬・ゲル・軟膏・湿布もあります
1990年代以降急激に個体数が減ったインドやアフリカで10年以上かけて調査した結果、なんと”ジクロフェナクによる中毒”だと判明しました。
ジクロフェナクは、非ステロイド系抗炎症薬として、処方薬からドラッグストアで買えるOTC薬まであります。
ボルタレン、ナボールという商品名で見かけたことがあることでしょう。
しかもその効能範囲は広く、関節痛・筋肉痛・神経痛など整形外科系から、手術や外傷による鎮痛、腎結石・膀胱炎など内臓系の痛み、風邪による解熱・のど痛、歯科でも抜歯後の鎮痛に使用されます。
最近はガンによる慢性痛にもオピオイドより効果が高い上に、安全性も高いことから見直されています。
この薬はハゲワシが激減した地域で、牛の急性乳房炎や出産後の子宮内膜炎に使用されていました。
もちろん関節炎や肺炎などにも使用されますが、実際の現場では先に挙げた二つの疾病対策が中心でしょう。
なぜなら特に乳牛の場合、出産を繰り返さないと搾乳できないからです。
本来牛乳は、子牛のものです。
だからお乳が出なくなったら、妊娠⇒出産を繰り返します。
子宮内膜炎を発症すると、次の受胎率が低下するので、本来獣医師による産後ケアをお願いするべきですが、当該地域では、手間と経費削減のため出産したら農家がジクロフェナクを飲ませていたのです。
ところがジクロフェナクは、ハゲワシ・・というかほとんどの鳥類にとっては猛毒で、牛の体に残留していた薬剤で腎不全を起こしたのです。
鳥独特の腎機能が致命的原因に
飛ぶために全ての機能を軽量化した鳥は、尿を尿酸として排出する
街中で鳩のフンなんかを見ると白と緑のツートンカラーになっていますね。
あの白い部分が哺乳類の尿にあたる部分です。
犬猫を含め私たち人間も尿素として排出していますが、鳥は尿素を結晶化し”尿酸”として溜めるのです。
こうすると尿のほとんどを占める成分”水分”がいりません。
ジクロフェナクは人間でも腎機能に副作用を起こすことがありますが、特殊な腎機能を持つハゲワシにとっては致命的な事態になってしまいました。
こうしてハゲワシが激減したら、今度は野犬が激増しました。
すると狂犬病が蔓延し、人が襲われて感染することが増えたのです。
日本では1950年代に、猫の発症を最後に狂犬病は出ていません。
しかし豚コレラは26年ぶりに発生。
またワクチンの定期接種で久しく発生していなかった馬インフルエンザも36年後の2007年に再流行しています。
どちらのウィルスも基本的に限られた種内で伝染しますが、狂犬病に関しては哺乳類全体にリスクがあります。
昨年、都内の川沿いを散歩中にハクビシンを見かけました。
またタヌキが交通事故に遭い、救急搬送?!されるのも見ました。
東京赤坂でアライグマが走り回っているニュースも話題になりましたね。
どれも狂犬病ウィルスを保持している可能性があります。
間違っても近づいたり、触ってはいけません。
スマホ撮影中に飛び掛かられたり、ガブッという可能性もあります。
速やかに離れて、当該地域の保健所・警察などにお知らせ下さい。
ワクチンを定期接種しているのは犬だけで、猫を含めて他の哺乳類の中で、いつ感染が広がってもおかしくないのです。
しかも発病したら致死率100%という、ウィルス性感染症の中でも最強レベルです。
日常生活の中では「あり得ない」と感じていても、実は危うい状況にあることが多々あります。