酵母=病気?
一般に”酵母”と聞くとパンを発酵させたり、ビールを醸造する時に使うもの・・というイメージでしょうか。
また犬猫の皮膚炎でお馴染みの”マラセチア”や”カンジダ”、風邪症状に始まりブドウ膜炎、視神経炎、脳炎などを引き起こすクリプトコッカス症の原因となる”クリプトコッカス”など、むしろ健康に悪いイメージすらあるかもしれません。
どちらにしろ酵母が『健康に良い』というイメージまではないかもしれません。
注目酵母サッカロマイセス属
サッカロマイセス属はパン用に販売されているドライイーストや生イースト、またビール、ワイン、清酒にも長く使用されているグループです。
しかも大半がサッカロマイセス属のセレビシエという種類を使います。
ラガービールにはパストリアヌス(S.pastorianus)を使いますが、エールやスタウトビールはやはりセレビシエです。
長い使用経験からよりパン発酵に向いているもの、ビールに向いてるもの、清酒に向いているもの・・などをセレビシエの中から選択してきて、ビール酵母、ワイン酵母などと呼んでいます。
その中でも健康食品としての『ビール酵母』はドラッグストアなどで見たことがある方はいるかもしれません。
新たな栄養素として注目の核酸
ビール酵母はビールの原料麦芽の糖を利用して活動し、その発酵過程で糖以外の栄養素も取り込みます。
そこにはビタミンB群やアミノ酸類、核酸などを含みます。
核酸とはデオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)のことです。
人間や犬・猫を含めた生物の細胞の核内に存在しています。
この核酸の情報を元に、必要なタンパク質が作られているので、核酸の量と質の良さは細胞を健全に保つため重要です。
細胞が新陳代謝によって作り変えられる時も、古くなった細胞を壊し、その中の核酸を再利用したりもします。
その他肝臓でアミノ酸や葉酸などから作ることもできますが、加齢や持病があったりすると合成量が減ってしまいます。
そのため”第7の栄養素”として、食事から摂ることが注目されていますが、核酸を多く含む食品は”白子”とか”筋子””いくら”など、毎日摂りすぎると他の問題が出てくるものが多いんですね。
そこで注目されたのがビールを作った後に残る”ビール酵母”なのです。
核酸のお仕事
情報を元に細胞を作り変えるのが仕事なので、
・皮膚を健全にする
・被毛(髪)の健康に保つ
・疲労回復
・脳機能を保つ
・免疫力を維持する
などなどあらゆる細胞を元気にして、全身機能の維持に不可欠なのです。
そしてさらにこの核酸を酵母から摂るメリットとして、
『ビタミンB群とくっつくと働きが高まる』
ということがあります。
ビール酵母は麦芽からビタミンB群も取り込んでいますので、細胞の代謝が効率的に高まるのです。
免疫アップに欠かせない免疫細胞の活性化
免疫細胞の代謝が健全に維持できれば、免疫力もしっかり保てます。
例えばがん細胞やウィルスに感染した細胞を発見すると破壊してくれるナチュラルキラー細胞も、ただ存在すれば良いのではなく、一定の量と活動力を維持していないと意味がありません。
白血球の半分以上を占める好中球も同様で、自分で作った酵素で細菌や真菌を消化して殺菌してくれます。(ちなみに犬は白血球のうち好中球の割合が80%くらいあります)
また正常な細胞を間違って攻撃されないように働く制御性T細胞というものもあります。
この細胞が正常に働いてくれないと、ヘルパーT細胞やキラーT細胞の攻撃が制御できず、炎症やアレルギーといった症状につながります。
こういった細胞の代謝・活動にも核酸は非常に重要なのです。
酵母の健康効果
酵母を摂っても消化されてしまい意味がない・・という意見も一時ありました。
しかし研究が進み、小腸と大腸両方で腸内細菌叢に良い影響を与えていることが分かってきています。これは腸内細菌として有名な乳酸菌やビフィズス菌にもない特性です。
一般に乳酸菌は小腸で活動し、ビフィズス菌は大腸が主な活動の場です。
小腸と大腸では環境が違うからですが、酵母サッカロマイセス属はその両方で活動できる二刀流であることが分かっています。
私たちの研究でも非常に多様性に満ちた微生物であると実感していますが、サッカロマイセス属&核酸というのは、今後の健康に大きく影響を与える存在だと考えています。