原因不明の食中毒
一般に”食中毒”というと何らかの細菌(大腸菌や黄色ブドウ球菌、ウェルシュ菌など)が原因で起こるイメージでしょうか。
しかし食中毒の原因で一番多いのは寄生虫(アニサキスなど)で、食中毒全体の6割を占めています。
ノロウィルスに代表されるウィルス性のものは7%ほどですが、発生するとニュースになることが多いため、発生率が高いと感じられる方もいるかもしれません。
一方で4月に仙台市の小中学校で発生した食中毒は原因不明のままです。
学校給食で提供された牛乳が原因と考えられましたが、保管されていた牛乳や工場など様々な検査をしても原因が分からない。
もちろん真っ先に大腸菌や黄色ブドウ球菌などは疑われましたがどこからも検出せず、それ以外の化学物質も未検出。
体調不良者から提供を受けた便を検査しても、異常が見つからない。
下痢、腹痛などの体調不良を訴えた生徒・児童は1000人以上に及んだものの、重篤な症状は見られなかったのは幸いです。
しかし一体原因は何なのでしょうか。
風味異常の原因は?
一部の人から「風味がいつもと違った」という証言もありますが、時期的に牛のエサが乾燥飼料から青草になるタイミングでもあり、風味の変化が食中毒と関連するかというと判断が難しいところです。
また1頭あたりの搾乳量を増やすため、濃厚飼料は欠かせないのですが、濃厚飼料が過剰になると風味に異常が出ることがあります。
牛の主食は粗飼料と呼ばれるワラ、乾燥させた牧草、サイレージ(乳酸発酵させた牧草や飼料作物)などです。
しかし1日30ℓもの乳量を求められ、一定の脂質量もクリアするには炭水化物やタンパク質が豊富で繊維質が少ない濃厚飼料が必要になります。これはトウモロコシや大豆、麦、米ぬか、ふすま(小麦の表皮や胚芽)、油粕などで牛のおかず的な存在です。
この粗飼料と濃厚飼料の割合は牛乳の量や風味に影響します。
濃厚飼料の摂りすぎで起こる異常風味乳
濃厚飼料の比率が多すぎると風味に変化が出るのは、パルミチン酸の影響と考えられています。
濃厚飼料に多く含まれるパルミチン酸が多いと、血液中の脂肪分解酵素リパーゼも増え、それが乳汁に移行し生乳の脂肪も分解されるのです。
この時、脂肪分解臭と呼ばれる独特の匂いが発生します。
実際、異常風味乳が発生した時に、その牛乳の脂肪酸組成を調べると”酪酸”の比率が高いことがあります。
同時にそのような牛乳が発生した時、該当地域の牛の第一胃内の高級脂肪酸組成を調べるとパルミチン酸割合が高いのです。
牛の第一胃内の高級脂肪酸割合は、飼料による影響なので
濃厚飼料が多すぎた=パルミチン酸を多く摂りすぎた
↓
血液中のリパーゼが増える
↓
リパーゼが乳汁にも移行
↓
生乳中の乳脂肪も分解
↓
分解臭がする牛乳
ということが起こるのです。
分からないことは多い
今回の仙台市のケースでは牛乳の脂肪酸比率や酪酸量などを調査しているかは分かりません。
酪酸は通常、大腸に住み着いている酪酸菌によって作られ、腸内フローラを改善し、大腸を守る粘液の分泌を促します。
そして胃酸や抗生物質にも強いので、抗生物質の副作用でお腹の調子を崩す方には、酪酸菌が主成分のミヤBMが一緒に処方されることもあります。
ドラッグストアなどで”ミヤリンサン”という名前が付く整腸剤を見たら、それも主成分は酪酸菌です。
そういう訳で”酪酸菌”は赤ちゃんから持病のある方まで、安心して使えるのですが、”酪酸”そのものを口から摂取した場合、どの程度の量であれば良い影響を与え、どの程度超えると悪い影響を与えるか・・というデータがありません。
ただどんなに良い物でも、一定量を超えた時に何らかの負の影響があったとしても不思議ではありません。
検査や調査というのは、まずターゲットを決めないと始まりません。
どんなに検査機器の性能が上がっても、見つけたいものが不明だと調べようがないのです。
また下痢や嘔吐をすると
「食べたものが悪かったのでは?」
と考えるのが普通ですが、食べ物そのものの劣化ではなく、アレルギーや自律神経の失調など原因は多岐にわたります。
そして発生時期が4月25日と春土用の真っただ中であったのも気になります。
新年度が始まり知らずうちにストレスがかかっているところへ土用期間に入り、体は夏への準備を始めます。
近年は早い時期から暑さに見舞われ、自律神経にも負担がかかる環境です。
こういった環境では思っている以上に胃腸症状の乱れは起きやすいのです。
体調不良になった方やそのご家族にとって”原因不明”というのはご不安でしょうし、酪農家さんや牛乳製造メーカーとしても原因が分からないままでは、何に気を付けたら良いのか不安だろうと思います。
本当に牛乳が原因だったのかも含めて、調査が継続されることを願いたいです。