マグネシウムは腎臓に良くない?
腎臓ケア用のフードは低マグネシウムになっているので、結石を経験したワンちゃんや腎臓が心配なネコちゃんの飼い主さんは、マグネシウム量を気をつけている方が多いと思いかもしれません。
再発するのが心配で結石が溶けてからも低マグネシウムフードを続ける方もいますが、あまりお勧めしません。(獣医師の指示の下続ける場合はこの限りではありません)
低マグネシウムが有効なのはストルバイト結石で、長期に渡る低マグネシウムは心筋細胞に影響を与え不整脈を引き起こしたり、他の種類の結石(シュウ酸など)を作りやすくなります。
ただマグネシウムは、カルシウムと協調して働くので、マグネシウム単体の量のみならずカルシウムとのバランスが大切です。
マグネシウムとは?
マグネシウムは主要ミネラルで、体内における様々な代謝過程の酵素反応を助け、植物・動物・微生物に至るまで生きる上で欠かせない物質です。
犬猫に関する栄養基準を出している二つの団体がありますが、一番差があるのが猫の基準値です。
AAFCO(米国飼料検査官協会)
犬 全ての年齢で最小値0.05g 最大値0.3g
猫 最小値0.04g 妊娠授乳期&成長期0.08g
NRC(米国科学アカデミー学術研究会議)
犬 成長期0.04g 維持期・妊娠授乳期0.06g
猫 成長期&維持期0.04g 妊娠授乳期0.05g
”維持期”というのはいわゆる成猫のことですが、この時期の必要量(AAFCOは最小量と表現)はどちらも0.04gなのですが、成長期は2倍も違います。
そしてAAFCOは犬にだけ、上限(最大値)を設定していますが、猫に関しては設定していません。
ミネラルは過剰と不足の幅が狭く、非常に難しいのですが、手作り食であっても、普通に食餌が摂れる状態の犬猫であれば、マグネシウム不足に陥ることはあまりありません。
NRC(米国科学アカデミー学術研究会議)とは?
AAFCOが1990年にペットフード業界によって設立されたのに対し、NRCは他の組織で行われた調査研究を集め、評価する非営利団体です。
日本での”総合栄養食”はAAFCOを基準にしていますが、AAFCOの報告書を見ているとNRCの報告を参考にしているフシがあります。
AAFCOができるまでも出来てからも、動物の栄養に関する研究や調査、それに基づく基準値の設定はNRCが担ってきました。
これほどペットの存在が大きくなる以前の動物栄養学は家畜に関するものが中心だったので、犬猫の栄養基準についてやや迷走した時期もありました。
しかし現在の基準や報告書を見ると単純に数字で管理することだけでなく、例えばタンパク質についても
『消化率が高く、質の高いタンパク質を使用すること』
と原料の”質”について言及しています。
その動物が摂取した栄養が、どのように使われるか。
その動物が健康にあるための基準はどこにあるのか。
数字では表すことのできないことに対しても言及する姿勢は、非常に共感します。
しかし大量生産によって同一成分のものを供給したいビジネスにおいては、数字で表せない
”質”は存在価値がないという考え方もあり、世界の市場ではAAFCO基準が主流になっています。
猫のマグネシウム基準をどう見る?
さて二つの団体の背景をあえてご紹介したのは、基準値の差がどのような考えの差から生まれたのか・・・が分かりやすいと思ったからです。
その上で二つの基準を見ると
NRC:生物としての猫の体をどう理解するか?
AAFCO:大量生産しても品質のブレが少なく、クレームが起きづらいフードを作ること
というように読めてしまいます。
もちろんAAFCOが動物の体のことを全く考えていないとは思っていません。
ただ机上計算上の栄養学だけでなく、実際フードを作る現場を知り、それを食べた犬猫たちがどういう健康状態かを見てきた立場からすると、そんなふうに感じてしまうのです。
(個人の感想です)
ちなみにヒトでのマグネシウム必要量は、成長期でも成人より多くすることはありません。
体重に応じて増やしていき、妊娠期は成人必要量から15%程度増やすことを推奨しています。
それを考えると、AAFCOが猫の成長期に成猫の2倍ものマグネシウム量を推奨しているのは明らかに多すぎます。
また妊娠期であってもさすがに2倍は多すぎると思います。
哺乳類の中でも猫だけが、成長期・妊娠期にそこまでマグネシウムを必要とする事情や特性があるなら別ですが、そのような”特異的事情”は示されていません。
それならば、やはりNRC基準の方が、より猫の体に合った要求量と考えるべきでしょう。
犬のマグネシウム量は?
犬に関してもNRCは成犬より成長期の方を低く設定しており、ヒトを始めとした他の哺乳類と同じで適正だと思います。
NRC基準で猫の成長期※と成猫が同じ量になっているのは、成長する体重幅がヒトや犬より狭いためでしょう。
※NRCは”成長期”を正確に『離乳後の成長期』と表現しています。
NRCが犬の要求量を決める際に想定していたのは、欧米で主流の中型~大型犬だったため、体重の成長幅が広く、ヒトと同じように成長期の基準を別に設定したと推察します。
4㎏以下の小型犬も多い日本では、猫基準並みに成犬になっても成長期と同じ量でも十分かもしれません。
量より大事かもしれない比率
また量もさることながら、マグネシウムはカルシウムとの比率が重要です。
昔は
カルシウム:マグネシウム=2:1
と習いましたが、最近は
カルシウム:マグネシウム=1:1
という専門家が増えてきました。
そもそも2:1の時には、確たる根拠があったわけではないようなのです。
ところが高血圧の治療薬に、『カルシウム拮抗剤』と呼ばれるものも登場し
「カルシウムってそこまで比率高くない方がいいんじゃない?」
という感じで研究が進んだのです。
実際カルシウムの比率が高い国で、虚血性心臓疾患(心筋梗塞・心不全)の比率が高いのです。
フィンランドなど北欧は乳製品摂取量が世界一で、カルシウム摂取量も多いことで有名です。
そのためカルシウム:マグネシウムは4:1になっています。
オランダやアメリカなども、チーズやバターなどの摂取量が多く3:1。
それに対してカルシウムとマグネシウムを海藻や大豆製品からバランスよく摂れていた昭和の日本は見事に1:1でした。
「日本人はカルシウムが足りない。乳製品をもっと取らないと骨が弱くなる」
と子供の頃に散々言われましたが、結果的に骨の健康とカルシウム量の摂取量は相関性がないどころか、カルシウム摂取量世界トップクラスの北欧が、骨粗しょう症の発症率世界トップという事実。
(これは日照不足によるビタミンD不足も関連しているでしょう)
その上、過剰なカルシウムとマグネシウム不足が血管や心臓の病気を増やしている可能性を示唆しているデータです。
カルシウムがマグネシウムより優位だと、筋肉は収縮して緊張します。
これがふくらはぎや土踏まずなどで起こると”脚がつる”と言われる状態で、”こむらがえり”とも呼ばれます。
あの痛さはたまりませんが、同じ筋肉でも”血管”や”心臓”で起こると事は重大です。
降圧剤の中でもカルシウム拮抗剤(アムロジン・アダラートなど)というのは、カルシウムの細胞への取り込みを邪魔することで、血管の収縮を抑え血圧を下げる効果を発揮しているのです。
そのため年齢を重ねるほど、筋肉を緩めるマグネシウムの摂取量を増やした方が良い・・という専門家もいるほどなのです。
(比較的な安全な下剤として高齢者に酸化マグネシウムも使われていますし)
まとめ
『高血圧にはナトリウム制限より、マグネシウム追加』・・という考え方を提唱する専門家も(日本では少ないですが)海外では増えてきましたので、いづれ食事指導の内容も変わってくるかもしれません。
というか昭和の日本の食卓に戻せばいいだけです。
ちなみに冒頭で
「マグネシウムは植物・動物・微生物にも欠かせない物質」
とご紹介しましたが、例えば葉緑素(クロロフィル)と動物のヘモグロビンは構造がそっくりです。
分子の中央が”鉄”(ヘモグロビン)か、”マグネシウム”(葉緑素)かの違いで、動物のヘモグロビン不足がどんな症状になるかを想像して頂くと、我々動物だけでなく植物にとっても生きる上でどれだけ重要かがご理解頂けると思います。
それだけに不足はもちろん、過剰によってバランスを崩すことは体への影響が大きいのです。
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