新型コロナウィルスによる症状と特徴的な後遺症が報道される機会が増えました。
その中で普通の風邪やインフルエンザによる感染症にはあまり見られない『脱毛』と『嗅覚・味覚異常』があります。
とても珍しい症状のように捉えられていますが、漢方的に見るとそれほど驚きはありません。
なぜなら肺に関連する五体(体の五つの部分)は皮膚(犬猫の場合は被毛も含む)。
五根(五つの感覚器)は鼻。
五支(五つの精気=精神や気力が出る所)は息と毛。
肺の状態が良くない時、
・皮膚や被毛の乾燥
・皮膚の炎症
・脱毛
といった症状はしばしば見られます。
だから逆に皮膚のトラブルを繰り返す時は、肺を使って水分や栄養が皮膚・被毛にしっかり回すような対策を取ることをお勧めしています。
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また発病初期から、場合によっては後遺症として続く嗅覚(味覚)障害も、肺を司る感覚器は鼻ですので、そういう症状が出ても不思議ではありません。
また肺がやられてしまうと”息”が出づらくなるのは言うまでもありませんが、”毛”にも肺の気が届かなくなり、”脱毛”という結果になると考えられているのです。
犬猫に見られる脱毛の原因
脱毛の原因は様々で、皮膚の感染症から甲状腺の病気などもありますが、このように肺の機能低下による脱毛もよく見ます。
肺が機能低下した原因は問いません。感染症に限らず、外傷や気管支炎、肺炎など肺そのものがダメージを受けた場合だけでなく、心臓病に起因する胸水の滞留、肺水腫などでも、脱毛するケースをよく見ます。
これらは皮膚自体に問題があるわけではないので、外用薬や抗菌薬では改善しません。
ちなみに甲状腺の病気で脱毛や皮膚の乾燥が起きるのも、肺と関連しています。
甲状腺は体の上部・喉の近くにあるので、外からの防衛機能を司る肺と連携しているためと考えられています。
新型コロナの患者さんの肺画像を見たお医者さんが、
「まるで溺れた人の肺のようだ」
と表現していましたが、心臓の疾患で肺に水が溜まった状態と良く似ていると思います。
年をとって毛が薄くなる理由は、遺伝性ばかりではなく、肺の活動が落ちてくるのと関係しているのです。
加齢に伴う脱毛は徐々に進みますが、肺の異常に起因する脱毛は、ある日突然「ボサッ、ボサッ」という感じで抜け始めます。
肺のパートナーである大腸と協力して全身の水分をかき集めても追い付かず、皮膚や被毛が乾燥したり、栄養が回らなくなることから起こると考えられています。
心臓を助ける食餌・低ナトリウム食の落とし穴
肺そのものに問題がある場合は、そこに集中して治療すれば良いのですが、シニア犬に多いのは心臓、シニア猫に多いのは腎臓に起因する肺のトラブルとその周辺のむくみなどです。
これらは元の病気の治療をしながら肺のケアをしていくので、簡単ではありません。
どちらもすぐ命に関わる臓器なので、微妙な調整が必要になります。
例えばごく初期の心臓病であれば、低ナトリウムの食餌が効果を発揮します。
しかし臨床的に明らかな症状が出てきてからは、利尿剤などの薬を併用しなければならないでしょう。
すでに明確な症状が出ているレベルの食餌管理はとても難しく、定期的な血液検査や獣医師との連携が必須です。
一般的に低ナトリウム食にすると、体はナトリウムを保とうとしてアルドステロンというホルモンを放出します。
ただアルドステロンが放出されると、腎臓でカリウムの排出が促進されます。
つまり低いナトリウム量に合わせるようにカリウムを捨てて、均衡を保とうとする作用が働くのです。
これが続くと、今度は低カリウム症に陥ります。
低カリウム症になると、食欲が低下し食餌の量が減ります。するとさらに低カリウム状態が促進するという悪循環に陥るのです。
この低カリウム状態は、治療に使われる強心剤の毒性を高めてしまうので、早急に通常レベルに戻す必要があります。
効果的な強心剤はわずか。少ないからこそ効果的に使う食餌管理が重要
そもそも経口できる強心剤は開発自体が難しく、いくつもの薬が
「今度こそは!」
と華々しくデビューしても、死亡率が下がるどころか増やす結果になり、次々と姿を消します。
強心効果が高すぎると、不整脈が増え、コントロールが非常に難しいのです。
その中でも1978年にドイツで合成されたピモベンダンという成分は、なかなか評判がよく、これは現在も生き残り、人にも犬猫にも使われています。
(薬剤名:ピモベンダン、アカルディ、動物専用薬にピモベハートなど)
欧州で行われた人間でのデータですが、ピモベンダンの長期使用で運動時間の延長が報告されています。
また低ナトリウム食によって誘発されるアルドステロンの放出を抑える効果もあるので、腎臓のカリウム排出を抑制する効果も期待できるのです。
そのためこういった薬に効果を最大限に発揮してもらうためには、食餌によるカリウム摂取量を増やすことも大切になります。
すくなくとも血漿中のカリウム値が過剰にならない限り、食餌からの摂取基準量を上回る量が必要になることもあります。
(注:このような場合の食餌管理は自己判断せず、必ず専門家に相談して下さい)
もう一つのキーミネラルは【マグネシウム】
肺に溜まった水や体のむくみを改善するのに、腎臓がフル回転するのですが、ここで
もまた大きな問題発生!
本来なら腎臓が働くための栄養は、肺が供給しているのです。
ところが肺はさばききれない”水”に身動きできず。
そこへ追い打ちをかけるように、利尿剤や強心剤による起こるマグネシウム不足。
どちらの薬も心機能だけでなく全身機能を保つために不可欠ですが、利尿剤は腎臓でのマグネシウム排出を促進し、強心剤は腎臓でマグネシウムをかなり消費します。
このような状態では、食欲もなかなか維持できず、食餌から摂れる量も減るので細胞内に維持されているマグネシウムはものすごい勢いで引っ張り出されます。
マグネシウムの不足は、血管の柔軟性を失わせ、心臓の筋肉に十分な血液が行き渡らなくなり、心臓の状態を悪化させるので、これもカリウム同様早急な補給が求められます。
腎臓の疲弊が招く次の症状
こうなると腎臓はヘトヘトです。
新型コロナに罹患して、肌の色が黒くなっている方を見ましたが、これも漢方的には腎臓に大きなダメージが起こっている時に見受けられる典型的な状態です。
ちなみに腎臓の五支(五つの精気=精神や気力が出る所)はズバリ髪。
肺の大きなダメージから回復した後、それを全力で支えた腎臓からの
「すんごく疲れました。。。」
というメッセージに見えます。
そういった脱毛には育毛剤などの類は、おそらく効果がないでしょう。
それより腎機能を戻す食事や生活が大切と思われます。
犬猫の場合は、どこからが”髪”かも微妙なところですが、顔周りの毛の薄さや白髪という形で見ることがあります。
”肺”に栄養を供給する”脾”や”胃”の活動
肺とは陰陽の関係にあって、密接に活動しているのが大腸です。
そのため肺にトラブルが起こると、便秘や下痢といった症状として現れることがあります。肺も大腸も水分を吸収し、老廃物を排出するのが仕事。
呼吸が苦しいという時は、その活動が十分に行えない状況で、大腸もそれに応じて活動量を落としていくか、逆に活動量を上げることもあります。
そのため便秘や下痢といった症状として出る場合があるのです。
その上、肺は胃や脾から栄養を供給してもらっているので、心臓の症状が進むと普通に食べていても痩せてくることがあります。
これは胃・脾が心臓の活動によって支えられているからで、心臓の症状が進むと食欲不振が現れるのもその関係性からです。
そのため感染症による肺のダメージより、心臓起因の肺ダメージは、総体的に全身を見ることが重要になります。
心臓の異常
↓
胃・脾の活動増加
↓
肺・大腸へのエネルギー供給が不足
↓
腎臓の疲弊
ざっとした流れはこうなりますが、個体の年齢、体質によって他の要因も複雑にからむのが普通です。
病名に関わらず症状に対処していく漢方
ウィルス感染であれ、心臓に起因するものであれ、漢方的には肺にダメージを負っている時のサポートは似ています。
それでいくと新型コロナウィルスに有効と思われる漢方薬もいくつかあるのですが、どこかで試してないかな・・・と今日も論文を探しています。
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