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東洋医学から見る⑳~春から夏の温病


熱が出る時、いつも悪寒がするとは限りません。

いきなり頭がズキズキしたり、喉が赤く腫れあがったりすることも少なくありません。





漢方の処方集・傷寒論によると傷寒”は、寒邪や風邪(ふうじゃ)が体表に取りつくと寒気がする・・というところを発病としています。


体の表面に取りついた物が体内に入り込もうとすると、皮膚の下で抵抗して押し戻して・・・というやり取りの中で起こる不調に対処する方法が書かれています。



『体の表面に取りついた・・』

なんて言うと、心霊現象みたいに聞こえますが、微生物の存在免疫力という言葉がなかった時代ならではの表現でしょう。

温病の症状

一方、温熱論に書いてある温病は、温邪が口や鼻から入り込もうとする時を発病とし、必ずしも寒気を伴うとは限りません。



『体表から寒邪が入り込んでくる』・・というより『口や鼻から何かが入り込んでくる』という方が、現代の感染症のイメージに近いかもしれません。


しかし実際の症状としては、いわゆる”風邪”のようなものばかりではありません。



特に春から夏にかけての温病の症状として特徴的なのは【発疹】

日本の気候だと、この時期は菜種梅雨から本格的な梅雨シーズンなので、”湿病”も出やすい時。


これが同時にやってくると結構厄介。

( ̄д ̄)


温病・湿病それぞれの度合いに合わせて対応が必要になります。


斑と疹の違い

一言で【発疹】と言っても、温熱論には”斑”と”疹”が出てきます。


”斑”は蒙古斑とか紫斑などのイメージに近い割とはっきりした点状のもの。

”疹”は、皮膚の上に盛り上がる小粒状のもの。


これらの出方で、体内のどこで何が起こっているかが示されています。


例えば

・紫色で小さい点状の斑は心包に熱がある。

・紫色でも点が大きな場合は胃に熱がこもっている。

・黒くてテカリのある斑の場合、熱毒が強く不治の病に属する。

・黒くて形がはっきりせず、斑の周りが赤くなっている場合は、熱が内部にこもっているので、清涼薬を大量に使い、熱を外に誘導すること。


などなど斑の色や特徴ごとに、実に細かく出てきます。



どちらにしろ、斑も疹も病気の原因となる邪気が、外に出てきている状態なので、意識が混濁しているような状況でない限り、出し切ってしまった方が予後が良いと考えます。



犬猫の場合、皮膚に斑として出ることはあまりありませんが、いわゆる皮膚病として症状が出ている時は、なんらかの”邪”を外に排出中と考えて良いと思います。


ステロイドは怖い?使うべきではない?

だからと言って、

・かゆくて眠れない

・かきこわす

・休めない・・というような状況を我慢するのはどうかと思います。



「ステロイド等で無理に症状を止めるのは良くない」

「一度使うとクセになるから怖い」

という意見もありますが、短期的に使い十分な休息や睡眠を確保した方が、予後が良いと思います。




そもそも傷寒論も温病論も、急性疾患に対する処方や観察が中心で、実は現代の漢方のイメージである慢性病に対する処方はほとんどないんですね。

そのため切れ味の良い薬も多く、一回もしくは一日の処方で、反応が見られる薬も多いのです。



とはいうものの、傷寒論の方に出てくる症状は、悪化する時間が数日単位なのに対し、温熱論に出てくる症状は、たった数時間で悪化するようなケースが出てきます。

これではさすがに間に合わなかったと思われます。


そして多くの場合、高熱やひどい炎症のせいで対処が追い付かない、または意識障害が起こり、薬を飲ませられないという病態です。


補液や人工呼吸器、強力なステロイドがある現代なら対処できますが、この本が書かれた時代は手の施しようがなかったのでしょう。



温熱論の処方数が少ない理由

実は

「これに罹ったら、救えなかった」

というのが本当のところかもしれません。

治癒する過程を見ることができなかったのでしょう。




強いかゆみや痛みを緊急的に止めるには、西洋薬の方が得意な時があり、そのへんは医師の判断で上手く組み合わせるのが現代医学でしょう。



『西洋薬は悪、漢方薬は善

というステレオタイプこそ、科学的ではありません。



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