top of page

成長期の食餌の注意点~カルシウムやビタミンの過剰摂取が起こす整形外科的な問題


成長期の食餌といえば”カルシウム”。


カルシウムに限らず、成長期は様々な栄養素が必要ですが、過剰な栄養素が引き起こす問題はあまり注目されません。



栄養過剰が引き起こす関節や体の成長の問題が注目されるようになったのは、わりと最近のことです。




少し前までは、

「子犬の頃は食べたいだけ食べさせて良い」

という風潮でしたが、人間の食べ物同様、近年のペットフードは極めて嗜好性が高くなっています。



そのため食べ過ぎてしまい、それが成長を妨げていることが問題になっています。

カロリーの過剰も健全な成長を妨げるのです。



だから

「うちの子は食が細くて心配」

「食べムラがあって栄養不足にならない?」

「パッケージに書いてある量を食べきれない。大丈夫でしょうか?」

というご相談を受けることも多いのですが、病院で何か病気の兆候を指摘されていない限り「大丈夫ですよ」

とお答えします。



体の方が「過剰だ」と反応しているのであって、決して異常なことではないのです。

食べなくて心配だからと、おやつでカロリーを補う必要もありません。



もちろんカルシウムの不足が、骨の減少症を招いたり発育不良につながることはあります。

しかし過剰なカルシウムもまた、股関節の形成不全症や骨軟骨症、発育不全、足の湾曲などを招くのです。



骨軟骨症とは、肩、ひじ、膝、足根などの関節の軟骨が、成長過程で異常が起こる病気です。

軟骨部分が厚くなり、関節の動きを良くしている滑液から栄養を取り込めなくなった結果、壊死が起こります。


それによって軟骨に亀裂や剥離が起こり、痛みや可動域の低下を招きます。

そのまま進行すると関節の変形も起こり、ますます痛みがひどくなり歩きづらくなります。



大型犬で起こりやすいですが、中型犬や小型犬でも起こらないわけではありません。




妊娠期や授乳期にも母犬の骨量を維持するために高いカルシウム摂取が求められますが、これも過剰になるとやはり胎児の骨軟骨症が起こります。


過剰なカルシウムが問題になる仕組み

高いカルシウム量を摂取すると、血中のカルシウムとリンも増加します。


もちろん血中にあるカルシウムの吸収・沈着にはビタミンDが強く関与しますので、ビタミンDが不足していると吸収が制限されます。



じゃあ吸収できなかったカルシウムはどこへ行くのか?というと、一部は腎臓で排泄のラインに乗りますが、それも続くと別の問題を引き起こすので、やはり好ましいことではありません。



そもそも成長期の犬には、過剰なカルシウムを防御する機能が出来上がっていません


そのためどんどんやってくるカルシウムは、骨に沈着するばかりで、骨の再吸収ができなくなってしまうのです。


再吸収とは、骨の新陳代謝のことで、古い骨を分解して新たな骨の材料を吸収し、より強く大きく作り変えていくことです。



分解された骨は、カルシウムやコラーゲンなどになり、これらは血液に乗り再び移動していきます。



このサイクルによって、体格が成長していくのですが、過剰なカルシウム摂取によって常に血中が高いカルシウム量で維持されると、出入りがしにくくなり、結果的に骨の成長も成熟も遅れ、全身の関節や骨に重大な問題が起こるわけです。


カルシウムとリンの比率

食餌の中のカルシウムとリンの比率が悪いと、整形外科的な問題が起こるとよく言われています。

確かに肉だけの食餌ではリンの比率が高くなり、血中カルシウムのバランスが崩れます。



基本、肉食をする動物は骨付き肉を食べるので、カルシウムが不足することも過剰になることもないのですが、手作り食で骨付き肉を安全に食べられるよう調理するのは難易度が高いです。



イワシや小あじなど、骨ごと食べられる新鮮な魚はお勧めですが、一年中手に入るわけではありません。



そこでお勧めしたいのが、卵の殻です。

よく洗った殻を、電子レンジで1~2分加熱し、すり鉢で粉末にし、体重に応じて手作り食に振りかけます。



総合栄養食を使用している場合は、この手のトッピングは絶対にしないようにして下さい。

むしろ多すぎるのが悩みなので、食餌量全体を15%程度少なくしてもいいくらいです。


もう一つの過剰注意ビタミン

もう一つ、成長期の体格形成に重要なものにビタミンCがあります。


骨や腱に重要なコラーゲンの形成に、ビタミンCは強く関与しています。



一般に

「ビタミンCは水溶性なので、余ったら排泄される」

と言われていますが、一般的なフードに添加されるビタミンCは石油から作った合成ビタミンです。

こういったものの体内での動態は、食材に含まれる天然ビタミンCと同じ作用をするかは分かりません。

分子構造も似て非なるものです。



そもそも天然に存在するビタミンCを過剰になるまで摂取するのは結構大変です。


そのため現実的には起こりにくいはずなのですが、なぜかペットフードなるものが出てきてから、過剰症といえるようなことが起こっています。




過剰に添加されているビタミンCは血中のカルシウム量を増加させます。


するとやはり、軟骨の形成・発達・成熟が遅れるのです。

それに伴い、やはり骨の再吸収が妨げられ、股関節の形成不全等の関節の病気を発生させる可能性があります。



ただ近年の研究で、ビタミンCが慢性の関節炎に良いのではないか・・という報告もあります。

適正量であれば、コラーゲンの生成に関与し、関節のゆるみを防ぐ効果も指摘されているので確かに有効かもしれません。


しかしまだ十分な研究結果が揃っているわけではないので、現時点では

「効果があるかもしれない」

というレベルです。



どちらにしろ

「水溶性だから多めにあげても大丈夫」

ということはなく、特に成長期は過剰にならないよう気をつけるべきです。


bottom of page