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動物とヒトの薬剤耐性菌①~家畜由来のMRSAがヒトに及ぼす影響



薬剤耐性の問題を広く捉える

2015年WHO総会にて『薬剤耐性に関するグローバルアクションプラン』が採択されました。


これは近年世界中で顕著化している『薬剤耐性菌』の問題を人間だけでなく、動物、環境などより広い視点から研究し、問題解決に導こうというプランです。



全世界で70万人もの人が薬剤耐性菌が原因の感染症で亡くなる昨今。

高度な医療を受け、受診のきっかけとなった病気の治療には成功したのに、そういった感染症で命を落とすのは非常に悲しいことだと思います。



時折「病院でMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)感染が発生した」

という報道を聞くことがあると思いますが、薬剤耐性菌の問題は医療現場で非常に重要視されています。



医療施設由来のMRSAをHA-MRSA(Healthcare-associated MRSA)。

市中に広がっているMRSAをCA-MRSA(Community-associated MRSA)と呼んでいますが、オランダやドイツの病院で分離された多くが、家畜由来のLA-MRSA(Live--associated MRSA)だったと言います。



これは今、ヨーロッパで家畜関連のMRSA(特にブタ)が大流行しているのと、深く関連していると思われます。

そしてこの動物由来の型が、ヒトの市中感染型CA-MRSAと遺伝的にとても似ているのが気になります。


これら私たちを取り巻く環境を鑑みると、”人の病気”と”動物の病気”を分けて考える時代ではなくなったと思います。


特に人と極めて密接な生活を営んでいる犬や猫の耐性菌の問題は、今後感染症対策の重要な課題になるやもしれません。


抗生物質の乱用が耐性菌を生む

『インフルエンザなどウィルス性の感染症に、抗生物質や抗菌剤を処方しないように』

『家畜・家禽への適切な薬剤使用を』


などと関係省庁がたびたびアナウンスしていることからも分かるように、薬剤の使い方が問題視されています。



特に食用動物(牛・豚・鶏など)の体重増加目的に使用される抗生物質・抗菌剤が人間にもたらす影響は、実は病気治療目的で処方される抗生物質以上に大きいと考えています。

(食用動物の抗生物質についてはこちら⇒目に見えない抗生物質



そのため農林水産省及び全国家畜保健衛生所が主体となり、全国規模のモニタリング調査をしています。

調査方法は各動物から糞便を採取し、どの程度耐性菌がいるかを数えます。



その結果から、豚と鶏から複数の薬剤耐性菌が高い率で検出されました。

ウシからも検出されていますが、比較的低率です。



例えば大腸菌の耐性菌を見ると、食用動物ではテトラサイクリン系薬剤に耐性を持つ比率が特に高く見られます。



ウシでは20%くらいですが、ニワトリでは50%近く。ブタに関しては60%に迫っています。そして犬や猫は10%~20%くらい。



これに対し、腸球菌でテトラサイクリン系の耐性を見ると、ブタ60%、ニワトリ50%と大腸菌に対する耐性とほぼ同じなのですが、犬と猫も50%を超えています


他にもエリスロマイシンなど、耳鼻咽喉・皮膚など広い細菌に有効な抗生物質の耐性菌もウシ以外からは比較的高く出ています。


つまりその動物によく使われている薬剤の耐性菌が多いのです。



家畜由来のMRSAの問題点

ヨーロッパでは、家畜由来のMRSAを保菌しているのは畜産農家、あるいは畜産業が盛んな地域など、ある程度動物との接触がある方に限定されると考えられてきました。

しかし経路不明の市中でも散見されるようになり、注視すべき状況と考えられます。



こういったヨーロッパでの状況を受け、日本国内でも家畜のMRSAについて調査が始まっていますが、やはりブタでの保菌が見られています。



同時に都市部に住み、動物との接触や海外渡航歴のない方から、家畜由来のMRSA検出が報告されています。



この方は、なかなか良くならない難治性の関節炎を患って受診されたのですが、思いがけず家畜由来のMRSA感染症と診断されたわけです。しかし


・どんな経路で家畜由来のMRSAに感染したのか

・難治性の関節炎が家畜由来MRSAの主症状なのか


などまだまだ分からないことが多いのです。



この関節炎の患者さんは、検査の結果テトラサイクリン、ゲンタマイシン、クリンダマイシンなど動物にも良く使用される5種類の薬剤耐性が判明しています。


ただ国内の豚から分離されているMRSAは、ゲンタマイシンやクリンダマイシンに耐性を持っておらず、この患者さんから分離されたのは、少なくとも国内の豚由来ではないと考えられます。

謎はますます深まるばかり・・・。



また残念ながら、この方の食生活までは報告されていないので、食肉を食べた時との関連は不明ですが、今後注意深く見守っていく課題だと思います。




とりあえず人も動物も年齢と共に罹りやすくなる関節炎の新たな原因として、家畜由来のMRSAも頭に入れないといけないと思いました。

続く




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