「火の通った食べ物は酵素がない死んだ食べ物」
「犬猫の先祖は、生肉が中心だったから、生食が彼らにとって正しい」
「生野菜は安全だが、火の通った野菜を食べさせると腎結石の原因になる」
どれも獣医師や大学教授といった信頼のある方が発信した情報です。
一方で、同じような立場の方がそれと正反対の主張をしており、戸惑う方がよくいらっしゃいます。
以前「SPF豚なら生で食べさせても良いと獣医師に聞いた」とお問い合わせがあり、ビックリしたことがあります。
豚肉は論外ですが、野菜などは種類によると思っています。
茹でキャベツやご飯(白米)が結石の原因に?!
ある時
「たまに茹でたキャベツをトッピングしていたが、それが結石の原因と言われた。おたくのフードは、キャベツを使っているか?」
というご質問を頂いたこともあります。
”茹でたキャベツ”というのは、結石の悩みを持つ方には有名だそうで、その根拠は一体何なのかと思い、色々調べたこともあります。
しかし結局、納得できる科学的根拠は見当たらず、”ある獣医師の経験談”が根拠となっているように思われます。
他にも
「おやつ代わりに、体重10㎏の犬に、毎日ピンポン玉1個程度のご飯をあげていたが、それが結石の原因だと言われた。そんなこと本当にあるの?」
と言うご相談もありました。
経験を軽視するつもりはありませんが、キャベツにしろご飯にしろ、根拠が薄いと思ったので、その方々から普段の食餌内容や運動、生活習慣などを伺ったら、はるかにリスクの高い原因が見つかりました。
どちらも2~3歳の若い犬でしたが、少しアドヴァイスをさせて頂き、茹でキャベツトッピングやおやつご飯もやめていませんが、それ以降一度も再発していません。
診察の場では、生活全般の話まで詳しく聞き取る時間がない場合もあります。
遺伝的要素が極めて強く、特殊なサポートが必要な犬がいることも否定しませんが、多くの犬が食餌の工夫やちょっとした習慣で、乗り越えられると考えています。
食品を調理すると微生物叢が変わる
原題はCooking food alters the microbiome
2019年9月30日付けで科学誌ネイチャーに掲載された、カリフォルニア大学サンフランシスコ校とハーバード大学の7年にも及ぶ研究結果です。
論文を報道した記事⇒サイエンスデイリー
結論から言うと『加熱した野菜は腸内細菌に良い影響を与える』
加熱調理すると、栄養素の変化や酵素の失活など”変化”することは分かっていました。
しかしその差が、マウスやヒトが食べて消化する過程で、どんな影響を与えるかはよく分かっていませんでした。
近年、冒頭に挙げたように『加熱した食品は、酵素がなく死んだ食べ物』というブームでしたので、健康の為にスムージーや生野菜を中心とした食生活をしている方も少なくないと思います。
しかし今回の研究では、マウス・ヒト両方で同じ結果が見られたので、これは犬猫でもほぼ同じような傾向と見て良いと思います。
野菜=植物の特性を考えれば、驚くべきことではありませんが、加熱調理した方が総合的にリスクが少ないと思われます。
なぜなら、植物は種を残すために生育していくもの。
若芽や若葉に毒性を含む物が多いのは、その段階で動物に食べられたら、それ以上成長できないからです。
同じように未熟な実に毒性を持たせているのも、そこで食べられたら、種が十分に育っていないから。
動物のように移動して環境や脅威から逃れることができないため、非常に高い戦略を持っています。
関連ブログ⇒大豆の不思議
植物の持つ抗菌性の化合物は、生のまま摂取すると腸内細菌叢にダメージを与える
多くの薬が植物から作られてきたように、植物が病気から自分を守るために作る物質は、様々な薬理作用を持ちます。
薬として一つの成分を抜き出し、狙った目的に使えば、ありがたい働きをしてくれます。
しかし治療のために投与された抗生物質が、腸内細菌のバランスを崩し、副作用として下痢などの胃腸症状として表れることも少なくないように、抗菌性の化合物が腸内細菌にダメージを与えるのは当然です。
しかしそれらを”加熱調理”によって除去した結果、我々動物が進化してきた可能性を論文では指摘しています。
生野菜でしか摂れない栄養素や酵素があるのは間違いないので、全く摂らないというのはやりすぎですが、少なくとも”摂りすぎない”ことは大切だと言えるデータだと思います。
ちなみに生肉と加熱した肉との差は、なかったとのこと。
この研究は、一般に流通している生肉にしばしば付いている微生物による影響は含まれていません。
そのためこの結果を持って『生肉は大丈夫』と考えるのは早計です。
むしろ差がないのであれば、断然加熱して食べることをお薦めします。
酵素不足が老化やあらゆる病気を引き起こす?!
この説もよく聞きますね。
酵素不足は確かに問題を起こすかもしれませんが、この研究結果を考慮すると、現代では摂取不足というより消費過多で『酵素不足』が起こっていると考えた方が良いでしょう。
なぜなら肉や野菜を加熱して食べ始めたのは、ここ40~50年のことではありません。
この間食品に起こった大きな変化は、『化学添加物』『農薬』『化学肥料』です。
これらの影響で、多くの酵素を消費していると考えた方がしっくりします。
と言う訳で、今回の回答は
『生食はほどほどに。生肉は寄生虫や微生物による感染症リスクが伴うことをお忘れなく。酵素不足が心配な場合は、農薬・化学肥料・抗生物質などを極力使わないで育てられた食材や化学添加物を使用しない加工品を選び、過剰消費を防ぐ。補給する場合は果物や大根などの一部の野菜で』
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