最近、仔猫用ドライフードからゼアラノレンが検出され、回収を呼び掛けています。
ゼアラノレンは、麦やトウモロコシなどの穀物に付くカビから発生するカビ毒の一つです。
これはカビ菌そのものが死滅しても残り、熱にも強いのが特徴です。
健康被害が出るような”カビ毒”を作るカビ菌は、アスペルギルス属、ぺニシリウム属、そして今回検出されたゼアラノレンを作るフザリウム属のどれかの場合がほとんどです。
このカビ毒 ゼアラノレンは消化管粘膜や肝臓、そして赤血球や消化管に住む微生物によっても代謝され、特にメスの体に影響を与えます。
一般的な食中毒のイメージは、嘔吐や下痢かもしれません。
(もちろんカビ毒による食中毒も嘔吐・下痢のような胃腸障害を起こすこともあります)
しかしこのカビ毒はエストロゲンを刺激します。
エストロゲンはよく『卵胞ホルモン』とか『女性ホルモン』と呼ばれますが、コレステロールから生成されるステロイドホルモンの一種です。
そのため成長期の動物が摂取すると発情が早まることがあります。
今回は仔猫用フードということなので、成猫や妊娠期の猫が食べる可能性は低いと思いますが、そういった猫が食べると発情期が伸びたり、流産や死産の原因となる場合があります。
このカビ毒は、特に豚の感受性が高いとされていますが、乳牛でも時折健康被害を出します。
餌となるトウモロコシだけでなく、保管していた牧草に生えたカビから発生することもあるからです。
肝臓で代謝されることもあり、一部が肝臓(レバー)に蓄積され、肝機能障害を起こします。
しかし家畜で深刻なのは、エストロゲンをかく乱することから起こる、外陰部や肛門の膨張、乳牛の場合は乳房炎などです。
今回も仔猫に対しては、下痢よりもこちらの毒性の方が心配です。
(もちろん仔猫の下痢は看過して良い問題ではありませんが)
急性毒はあまり出ませんが、150℃で45分加熱してもほとんど分解されないため、キャットフードに加工しても残ります。
どんな種類の毒性も困りますが、急性毒は割と派手な?!症状が出るため分かりやすく、すぐに摂取を止めることができます。
しかし慢性的に起こる毒性は、今回のように内分泌系に影響を与えたり、腎臓や肝臓で毒性を発揮するものが多く、臓器が深刻な状態になってからでないと発見できない場合があります。
また見つかった時も、原因がすぐに『カビ毒』だと特定できないことも。
特に仔猫・仔犬だとその臓器に先天的な問題があって症状が出ているかもしれません。また高齢の場合は、年齢による肝機能低下や腎障害が起こることも少なくないため、それとカビ毒によるものかの判別は、すぐには難しいでしょう。
「当たり前でしょ!」
と言われるかもしれませんが、カビ毒の発生は、カビの発生を防ぐしか方法はありません。
ペニシリンやコウジカビなど、我々にとって有り難いカビもある一方、ちょっとした違いで命の危険にもなるカビ。
クリスマスセールで、お得にゲットしたブリーチーズをかじりながらカビの有り難さと怖さを考えてます。
追伸:ちなみにブリーやカマンベールチーズの白カビはぺニシリウム属です。
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