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なぜ効くのか?~古くて新しい漢方薬


漢方薬が効くメカニズムは、実はほとんど判明していません。

そのため日本でも保険適用するかどうかで揉めたことがあります。

ただ『こういう症状に使ったら改善した』という積み重ねは膨大にあります。

西洋薬=いわゆる処方箋がないともらえない薬や、OTC薬(薬局やドラッグストアで買える胃腸薬や鎮痛剤など)は、一つの薬に一つの有効成分が基本です。

そのため認可する役所には

『この薬の有効成分はこれです。この成分はこんな効果があって、こんな症状を改善します』

という申請をし、審査してもらいます。

しかし漢方薬は、数種類から10数種類ほどの生薬の組み合わせです。

それによって生まれる成分は数百とも数千とも言われ、その一つ一つが体にどんな影響を及ぼしているか、具体的にはほとんど分かっていないのです。

また一つ一つの生薬の薬効と、漢方薬として完成している薬効は一致しません。

生薬が合わさることによって生まれる成分に、重要な働きがあるようです。

例えば同じ『葛根湯』であってもメーカーが違えば、生薬の配合量が微妙に違う場合があります。

そのため同じ漢方薬であっても、使う人の症状や体質によって、使い分ける場合もあります。

また一般に『漢方薬は効き目が穏やか(ゆっくり)』というイメージを持つ方が多いですが、これには意外な事情があります。

本来漢方薬は急性症状に対応してきました。

そのため使い方や量を誤ったら、副作用どころか命に関わるようなものも少なくありません。

抗インフルエンザ薬タミフルの合成成分の一つシキミ酸を含む八角(スターアニス)

しかし何故『漢方薬は優しい』と思われてきたかと言うと、単純に

『最小限の配合量だったから』

どういうことかと言うと、昔から生薬の多くは貴重で、手に入りにくいものも多く

『効果を感じられる最低量』

を基準値にしたのです。

”和漢”と言われる生薬は、その名の通り、日本国内で栽培・製造していましたが、その他の生薬は、当時から大陸から輸入しているものもたくさんあったからです。

現在のように、大型貨物船の定期便や航空貨物などない時代。

注文しても、いつ届くか分かりません。

(・・・そういえば現代でもそういうことありました(^_^;)最近ア〇ゾンで、ちょっと怪しい日本語の出品者から購入したものが1か月近く届かなかった時はドキドキしました)

また国内の気象情報はもちろん、外国の気象状況や生育状況といった情報がリアルタイムで入るはずもなく、生薬の不作なのか、生薬を運んでいる船が悪天候で難儀して届かないのか、はたまた言葉が上手く通じず注文が伝わっていないのか全く分かりません。

一つでも生薬が揃わなければ、漢方薬として完成しないので切実でした。

現在、病院で処方される漢方薬は、”エキス剤”と言われる顆粒状のものです。

実はこの”エキス剤”は日本で開発されたもので、煎じて飲む漢方薬をこのスタイルにしたことで、世界標準の薬としてデビューする可能性を開きました。

エキス剤にすることで、生薬の生育状況や産地によるブレを調整でき、成分を一定にすることが可能になります。

それによって科学的評価や臨床研究がしやすくなったのです。

全ての成分が、何をしているかは把握できなくても、各成分量が一定であれば、それを飲んだ時の条件も一定になり、評価が可能になります。

西洋にはご存じのように、ハーブと呼ばれる生薬がありますが、基本的に一種類ずつ使い、漢方薬のように複雑に配合しません。

(お茶として楽しむ場合は別として)

そのため成分の評価がしやすいのです。

一方漢方薬のような多成分薬はFDA(アメリカ食品医薬品局)も評価のしようがなく、”薬”として認めてこなかったのです。

しかし欧米では、動物医療の世界でも漢方薬の評価は高く、臨床の現場でも使用されています。

(特にハーブの使い方が難しい猫にも、漢方薬は使用されています)

それらの研究も土台になったと思いますが、ついに大建中湯(ツムラ)という漢方薬が、FDAに臨床治験薬として認可され、2011年から全米で大規模な臨床試験が開始されました。

(その後今日まで、治験が中止されたという情報も入っていないので、順調に審査が進んでいるのでしょう)

大建中湯は、外科手術後に起こる腸閉塞の治療に有効であることは、日本でよく知られています。

せっかく手術に成功しても、その後に起こる合併症は世界共通の問題です。

まずは短期間で評価しやすい所から入り、いずれこの漢方薬の幅広い効果が広まっていくといいなあと思います。

かつて日本の半導体技術が、アメリカ、そして世界中を驚かせ、技術大国として評価され、経済大国の仲間入りをしました。

今度は漢方薬のエキス剤が、世界を驚かせる日がそこまで来ています。

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