top of page

犬猫の毛色の違いと性格の関係~遺伝子解析で分かってきた差


『毛色の違いで、性格に差がある』という話を耳にしたことがあるかもしれません。

よく猫では

黒⇒のんびり屋さん

茶トラ⇒やんちゃ

白⇒繊細・神経質

など・・。

その理由として

『黒は自然界で目立ちにくいが、白は目につきやすいから色だから注意深い性格になった』

と言われています。

確かにそれも一理ありますが、毛色と性格の関連性に科学的根拠がないわけではありません。

ラブラドールレトリバーやコッカースパニエルでの研究で、同じ犬種間でも

『薄い毛色の方が攻撃性が高い』

との報告があります。

個人的には『攻撃性が高い』という表現にちょっと違和感を感じます。

あえて言うなら

『濃い毛色はマイペースで、薄い毛色は物事に対して敏感である』

という表現の方が実情に近いと感じます。

この毛色と性格の関連性は、統計上の結果ではありません。

”幸せホルモン”と呼ばれるドーパミンとシミ・そばかすの原因となるメラニンが関連している可能性が指摘されています。

なぜなら原料が同じなんですね。

ドーパミンとメラニンは、チロシンというアミノ酸から作られています。

チロシン=筍を茹でた時に出る白いツブツブ

発酵が進みすぎた納豆の表面にも、白いツブツブが出てくる時がありますが、あれがチロシンです。

アミノ酸なので、基本的にタンパク質が豊富な食材に多く含ますが、りんごやバナナ、ごぼう・キャベツなんかにも含まれています。

肉や魚にはもちろんですが、特に大豆やチーズに多く含まれています

パスタに欠かせないパルミジャーノチーズも、粉状にしないで食べるとジャリジャリしていますが、あれもチロシンです。

↓ ↓ ↓

そのチロシンにそれぞれ違う酵素が反応すると、ドーパミンもしくはメラニンになるわけです。

犬の毛色を決める遺伝子はいくつもありますが、毛色の濃淡はメラノコルチン1受容体のタイプで決まることが分かっています。

細胞内のメラニンを刺激するホルモンが出ても、それを受け取る場所がなければ毛色は薄くなり、受け取り可能なら濃くなる。

全ての遺伝子は両親から一つずつ受け継がれますが、この受容体が機能している遺伝子が1つでもあれば濃い色になり、2つとも受容体が働かないタイプだと薄い色になります。

ただ濃い色の犬でも、遺伝子的には2つのパターンがあることが分かります。

つまり両親から1個ずつ計2個受け継いだ遺伝子のメラニン受け取り受容体が、

①2っとも機能しているタイプ

②1つしか機能していないタイプ

どちらも濃い色になりますが、性格上には差があることが分かっています。

どのくらい違うかと言うと、例えば麻薬探知犬の合格率に有意に差があります。

受容体が2つとも機能しているタイプの合格率は40%。

1つしか機能していないタイプは17.5%

(参照文献:ヒトと動物の関係学会誌32 『麻薬探知犬の合否に影響する毛色遺伝子』2012年岸尚代 他)

この研究によると、人懐こさや他の犬への寛容性、不安の感じやすさなどは、両者に差が見られません。

しかし集中力や仕事への意欲、活発さ、反抗性などに差があったそうです。

”反抗性”と言うと、一見使役には向いていない性格と感じますが、例えば盲導犬などと違い、麻薬探知という仕事の特性を考えると必要な要素だと思います。

(指示通りに動くというより、犬の集中力と犬のペースで嗅いでいく)

と言う訳で、遺伝子解析が進んだ今、毛色と性格の相関性は少しずつ解明されていますが、性格形成は遺伝子だけで決定するものでもありません。

環境要因も無視できません。

母犬や兄弟と離れる時期や、家族以外の人や他の犬、車や物音などの経験をどう積み上げていくか。

たとえ人間から見たら困った特性があっても

『遺伝だから仕方がない』

というのは、社会生活を営む上での言い訳になりません。

そもそもほとんどの犬種が、何らかの目的を持って作り出されてきました。

今はペットとして生きる犬たちにも、その特性に合った運動量と付き合い方が大切だと考えます。

あ、ちなみに運動量と言うのは、体だけでなく頭を使うことも含めます。



毛色の濃淡を決める遺伝子が性格に影響を与える

性格に影響を与えていると考えられる遺伝子メラノコルチン1受容体は、毛色の濃淡を決めるのであって、色を決定する遺伝子は別にあります。

つまり茶や黒という毛色自体は、別の遺伝子が関与しています。

そのため『茶色と黒の性格の差』というのは今の所、有力な証明はありません。

あくまでも茶色の中の濃淡(チョコレート色 or イエロー)、または黒色の中の濃淡(真っ黒 or グレー寄り)という差での結果です。

また

「ドーパミンは、幸福感を増すホルモンなのに”人懐こさや他の犬への寛容性、不安の感じやすさ”に差がないのは何故ですか?」

というご質問も頂きました。

一般論ですが、人懐こさや他の犬への寛容性といったものは、コミュニケーション能力に左右されます。

やや荒っぽい言い方をすれば、本人の”幸福感”とは関係なく、社会の一員として暮らしていく能力です。

人や他の犬と関わることが「楽しい!」と感じる個体なら、当然幸福感を感じるでしょうが、家族以外、また特定の犬以外とはあまり関わりたくない犬もいます。

『関わりたくないけど、敵意があるわけじゃないし、争いは起こしたくない』

そう思う犬は意外と多いのではないかと感じることがあります。

また調査対象は、ペットではなく使役犬なので、遺伝的にかなり選抜されています。

そのためコミュニケーション能力や不安の感じやすさについて、有意な差が出なかったと思われます。

ドーパミンは一般に”幸せホルモン”と呼ばれることが多いですが、中枢神経系に存在する神経伝達物質です。

多幸感を増すのは事実ですが、他にも意欲を高めたり、ホルモン調整や運動調整などにも関わっています。

そしてもう一つ、このホルモン量が集中力や活発さに影響を与える理由として、ドーパミンを原料に、アドレナリンやノルアドレナリンが作られていること。

そのドーパミンもまた、作用する酵素によってアドレナリンになるかノルアドレナリンになるかが決まります。

アミノ酸の一種チロシンが、作用する酵素によってメラニンになるか、ドーパミンになるか・・・というのと似ています)

アドレナリンもノルアドレナリンも、興奮を促す副腎髄質ホルモンですが、作用の仕方がちょっと違います。

アドレナリンは、心臓の収縮力を強めて心拍数を上げ、血糖値を上げ、代謝全般を上昇させます。

一方ノルアドレナリンは、同じく血圧を上昇させますが、末梢血管を収縮させます。

つまり

アドレナリン⇒心臓から全身に向かう血流を上げる

ノルアドレナリン⇒手足など体の末端からの戻す血流を上げる

どちらにしろ酸素やエネルギー源となるものを素早く全身に配る体勢になります。

つまりこのホルモンは、運動調整力にも大きく関係しています。

身体の隅々にまで素早く酸素やエネルギーが届かなくては、思った通りに動けません。

また運動中の姿勢を調整するには、よく『体幹を鍛える』と言いますが、それは筋肉バランスだけでなく、元をたどれば神経伝達機能を高めることです。

どんなに筋肉量があっても、指示系統が適切に活動しなければ、機敏で巧みな動きはできません。

『鶏が先か、卵が先か』という話と似ていますが、このホルモンの存在があるから、

やる気や意欲が高まる⇒活動量が増える

のか、

活動して酸素やエネルギーが効率良く全身を巡っている⇒意欲が湧いてくる

のか・・・・。

どちらにしろ、原料がなければ始まりません。

チロシンは必須アミノ酸ではないので、他のアミノ酸を原料に体内で合成できます。

この「体内で合成できる」という表現は曲者で、決して「摂らなくて良い」という話ではありません。

未だに時折見かけますが、

「犬はビタミンCを合成できるので、果物だの野菜だの摂らなくていい。果物などは、むしろ糖分の摂りすぎになるから与えない方が良い」

という説。

主食を果物にするならまだしも、適量をおやつや水分補給に与えるのは全く問題ありません。

(注:ただし秋の味覚ブドウは、犬猫にとって害となる成分が含まれている可能性が高いので与えないで下さい)

新鮮な酵素やビタミン・ミネラルを摂取できることを考えたら、犬用ビスケットよりずっと良いでしょう。

まとめ

チロシン

作用する酵素によってドーパミンorメラニン

ドーパミン

作用する酵素によってアドレナリンorノルアドレナリン

チロシンの体内での使い道は多様で、全てがドーパミンやメラニンになるわけではありません。

ただ特に日照の少なくなる季節やシニア期における身心の健康維持には、積極的に摂取することをお薦めします。

bottom of page