『生物が自分の身体の働きに必要な外部の物質を取りこむこと』
出典:栄養・生化学辞典
ちなみに”栄養素”の意味となると
『生体の発生、成長、成熟、維持、生殖などのために摂取すべき化合物や元素など』
出典:栄養・生化学辞典
これらを学ぶ”栄養学”の基礎は、明治時代にドイツからもたらされました。
最先端の学問として、日本でも研究が始まりましたが、当時来日していたドイツ人医師ベルツは、衝撃的な経験をします。
東京から日光までの移動は、馬でさえ6回乗り換える必要があった時代。
ある時、人力車で向かうことになったそうです。
するとその車夫は、一回も交代することもなく、14時間かけてベルツを乗せて日光へ到着しました。
その驚異的な体力に驚いたのはもちろん、もっと驚いたのが食事内容だったようです。
途中車夫が摂った食事は、玄米と梅干、漬物など当時の日本人が普通に食べていたもの。
「こんな貧しい栄養でこんなに体力があるのなら、自分たちの栄養学に基づく食事をさせたら、どんなにすごいパワーを発揮するのだろう」と考えたのです。
そこでベルツは、肉やバターなど、肉体労働にふさわしい高カロリー・高タンパク質・高脂肪食を提供しました。
ところが車夫たちは疲労困憊して、走れなくなってしまいました。
その経験からベルツは、
『西洋の栄養学がそのまま日本人にあてはまるものではない。日本人には日本食が良いだろう』
と書き残しています。当時は腸内細菌叢の差による消化能力の違いや、栄養利用率などが考慮されていない時代でしたが、少なくともベルツ先生は、
『環境や体質による違いで、体に合う食事は変わる』ことに気付いていたのでしょう。
しかし日本人の研究者からすると、
「あんなに立派な体格になるには、きっと肉とかバターを塗ったパンの栄養に秘密があるのだろう」
と考えていました。
その理論は第二次世界大戦後、アメリカで余っていた小麦を食糧難の日本に提供した時にも発揮されました。
「やっぱり小麦や肉、乳製品などが、体を丈夫に大きくする」
戦争中の食料不足からくる栄養不足だったのに、なぜか”日本食”を否定する論調が高まりました。
中には「米を食べるとバカになる」なんて言う学者まで出る始末。
こうしてドイツから入ってきた栄養学は、アメリカ流になり、戦後70年以上経った今も学校給食はこの理論を受け継いでいます。
その間、1970年代に成人病やガンが急増して国家財政に危機感を持ったアメリカ。
国をあげて生物学・医学・栄養学・疫学など多くの専門家を集めて大規模な研究をした結果
「元禄時代以前の日本食が、最も理想的な食事」
と結論付けました。
(参照:マクガバンレポート)
「おいおい、パン食と牛乳がいい。米だの木の根っこ(ゴボウのことらしい)だのを食べているから、日本人は栄養不足なんだ!って言ってたじゃん」
・・と突っ込み所満載ですが、これほど膨大なデータと、多岐に渡る専門家の意見をまとめたレポートは、滅多にありません。
40年前のレポートなので、その後の研究でメカニズムが判明したり、解釈が変わったものもあるとはいえ、このレポートが導き出した”食事”に関する基本的な考えは否定されていません。
しかし先日、学校給食の関係者から、今現場で起きている大きな葛藤を聞き、大変驚きました。
普段、動物の食餌について色々疑問や対応策を考えていますが、まさか子供たちの食事においてこんな大問題が起こっているとは思ってもいませんでした。
『玄米若しくは雑穀米に、煮物、魚などの和食メニューにすると役所が定める基準カロリーに満たない。ばれると助成金が減らされるなど、ペナルティを食らうが、子供たちの健康を考えると変えたくない』
という趣旨の話です。
その園では、おやつも市販の菓子などは一切出さず、季節の果物やおむすび、手作りパンや手作りまんじゅうなどを出しています。
するとカロリーベースでは、基準の8割程度にしか届かないと言います。
実際の献立を見ると、大変理想的な栄養バランスです。
しかしカロリーが足りない。
カロリーを満たすには、フライドポテトやマヨネーズで和えたマカロニサラダなどを付け合せたり、魚料理なら揚げたりチーズをまぶしたピカタなどにする必要があると言います。
そもそも『基準カロリー』の根拠がよく分かりませんが、基準カロリー8割のこの給食でそこの子供たちが栄養失調になったり、病気になったりしていません。
むしろ丈夫でアレルギー発症も少ない方で、何より健全な精神的発育を感じます。
またさらに驚いたことが、ハンバーグやコロッケなどに沿える千切りキャベツでさえ、必ず熱湯消毒する必要があるとのこと。
確かに食中毒に対する配慮は大切ですが、その対応策がさらに食中毒を増やしているように感じます。