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動物介在型医療への希望


昨年のことになりますが、アメリカ・ミズーリ州のタイガープレイスの設立者レベッカ・ジョンソン先生の講演を拝聴して参りました。

レベッカ先生は、人と動物の相互作用を長く研究されている方です。

高齢者と動物の関係に限らず、退役軍人と動物、自閉症の子供と動物、虐待を受けた子供と動物、受刑者と動物・・・など様々なケースの研究を聴いてきました。

人が受ける恩恵だけでなく、動物側が受けるストレスやメリットも調査しています。

タイガープレイスとは、ペットと共に入居できる共同住宅のようなもの。

いわゆる老人介護施設とはちょっと違い、レベッカ先生曰く

「ペットも人もこれまでの生活をできるだけ変えずに過ごせる場所」

ホテルのような素敵なロビーやダイニング、居室、お庭などハード面はもちろん、正看護師が常に人のケアをしてくれると同時に、定期的な獣医師の往診や飼い主さんの状況に合わせて散歩や買い物代行など夢のような環境に、速攻で『住みたい!!』と思いました。

医療関係者向けの講演だったので、質問も

『感染症リスク』

『費用』

『看護師のシフトと必要人数』

など現実的な質問が多く交わされる中、日本でも実現不可能ではない感触を得ました。

それ以上に意外だったのが、獣医師より医師の方が積極的だったことです。

医療費の削減が叫ばれる中、ガンやアレルギーなどは増える一方。

現在の医療制度の中では、予防医学に重きが置かれていません。

あくまでも『病気になった後の医療』です。

病気を予防することが、医療費削減の第一歩だと考えていますが、それが十分に出来ない現場の医師たちは、それに代わる”何か”を探し求めているように思いました。

(もちろんこのような講演会に足を運ぶ先生方は、多少なりとも興味がある方ばかりなので、医師全体が同じように考えているとは言えませんが・・・)

食生活や生活環境の多様性で、病気の原因は複雑さを増す一途で、現存の治療に限界を感じているようにも見えました。

活発な質疑応答の中で、個人的に興味深かったのは、自閉症の子供と犬の関係でした。

発達障害を持つ子供と動物との関係は、世界中で研究されていますが、今回、レベッカ先生の研究では、良い結果ではありませんでした。

自閉症の子供曰く

『犬は表情が豊かすぎる』

顔の表情だけでなく、全身で感情を表す犬は、落ち着かないようです。

また犬にとっても良い結果ではなかったため、現在猫で研究を続行中しているそうです。

子供の様子だけでなく、猫のストレスホルモン値なども測定しながら進めているとのこと。

これこそ共生研究だと、感銘を受けました。

動物が人間に与える影響を計った研究は多くありますが、同時に動物側にどんな影響を与えるかを観察した研究はあまりありません。

動物から聞き取り調査ができればいいのですが、そうもいきませんよね。

では何を指標にするか・・・。

犬や猫でも人間と同じように、ストレスがかかっている状態でも、態度や行動にはあまり出ないタイプもいます。

もちろん普段の行動観察も大切ですが、生体の正確な状況を観察するには、研究者の主観が入らない指標を採用する必要があります。

一言で”ストレス”と言っても、精神的な疲れだけでなく、暑さ寒さといった肉体的なストレスもあります。

指標一つ決めるにもなかなか難しいものがありますが、動物との良い距離感を保ち、お互いに助け合える環境を作るには、軽視できないテーマです。

癒しをメインにした動物介在だけでなく、医療介在型のセラピードッグは現在日本には数頭しかいません。

それも小児病院での仕事がメインです。

セラピードッグが付き添うことで、長期に渡る入院、手術はもちろん、骨髄穿刺など強い痛みや不安を伴う検査・治療にも効果があることが分かってきています。

例えば犬がいない場合、検査の30分前から強いストレス値が出ていた子が、セラピードッグがいることで直前(5分前)まで出なくなったケースもあります。

また術後のリハビリの進捗具合にも好影響を与えていることは間違いなく、逆に不安視されていた感染症の問題は起こっていません。

当然アレルギーや好き嫌いの問題は避けられませんが、希望すれば大人の医療現場にも導入してもらえるようになったらなあ・・・と密かに願っています。

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