卵と納豆と風邪薬
- 青い森工房
- 2018年7月29日
- 読了時間: 4分
更新日:2021年2月22日

この三つに共通している成分があります。
それはリゾチーム。
リゾチームは細菌の細胞壁を加水分解する酵素です。
実は、唾液や鼻汁にも含まれていて、外からの侵入者から守ってくれています。
まるで玄関で不審者の侵入を見張っている警備員さんのようです。
ところが自分で持っているリゾチームでは追いつかない数の細菌に襲われたり、免疫力が落ちていると、外敵の侵入を許してしまい、風邪などの感染症に罹ってしまいます。
そんな時、CMでお馴染みのパブ〇ンなどを飲むと思いますが、最近
「塩化リゾチーム配合」
と聞かなくなったと思いません?

一般に、酵素類は熱に弱いです。
ところが鶏卵の研究で、非常に興味深いものがあります。
健康のために生卵を飲む方もいっらしゃいますが、生卵を安全に食べられる国は、世界広しといえども日本くらいです。
鮮度の問題・・というよりサルモネラ菌などの感染リスクがあるので、加熱調理が基本です。
しかし酵素ブームが起こってから、
「やはり”生”で食べないと、酵素が失活してしまって意味がない」
というような声も多く聞かれました。
確かに卵も、加熱(ゆで卵)すると8割方リゾチームが失活してしまいます。
まずこれが一つポイント!
加熱しても、100%は失活しないということ。
そして残った約20%のリゾチームを調べたら、生の時よりパワーが10倍以上強くなっていたこと。
生食の良さがたくさんあるのも事実ですが、加熱調理の良さもあることをこの実験は物語っていると思います。

これと同じような話で、納豆も
『アツアツご飯の上に乗せるといい成分が失われる』
というような話をTVなどでやっていたためか、時々そのようなご質問を受けることがありますが納豆屋的には疑問です(^_^;)
この場合の”いい成分”とは、やはりリゾチームや血栓溶解酵素ナットウキナーゼを指していると思われますが、それらの酵素類と納豆菌を混同している番組も何回か観ました。
酵素類は納豆菌が作っているもので、納豆菌そのものではありません。
納豆菌の死滅と酵素の失活とは、別の話です。
ちなみに炊飯器の保温温度はだいたい70℃前後。(メーカーによって若干の差はありますが、60℃くらいに設定できるものもあるそうです)
ご飯をその温度(70℃)にキープして30分くらい納豆を乗せておいたら、ある程度酵素類は失活するでしょう。
しかしお茶碗によそったら、あっと言う間に温度は50~60℃まで下がるので、あまり現実的な話ではありません。
(そもそも70℃の固形物を飲み込んだら火傷しますね)
そして納豆菌の方は、そんな温度じゃまず死滅しません。
最近は匂いを抑えたり、糸引きを少なくするために納豆菌に放射線照射したり、手を加えてあるものもあるので、そういうものは分かりかねますが、通常の納豆菌なら、かなりの高温まで死滅しないことは確認しています。
冷ご飯より、やっぱりアツアツご飯に乗せて食べたいという方は、どうぞご安心下さい。
ちなみに納豆には、天然の抗生物質と言われるジピコリン酸なども含まれています。
ジピコリン酸が細菌の増殖や発育を抑え、リゾチームが細菌の細胞壁を壊す。
科学的にも解明された納豆パワーですが、実は風邪薬に配合されていた塩化リゾチームの方は『その効果はプラセーボ効果を超えないような弱いもの』である可能性が指摘され、配合されなくなりました。

リゾチームの効果そのものに疑問があるのではありません。
これはリゾチームに限った話ではないのですが、”この成分が良い”とされても、それだけを抜き取ろうとすると、いくつかの化学的処理が必要になります。
そして塩化リゾチームのように、成分を安定化させるために他の成分をくっつけておくことが必要になることもあります。
その過程や基材との相性で、
「抜き出してみたら思ったほど効果がない」
「予想外の副作用が出た」
ということはしばしば起こり得ることです。
特に食品に含まれる成分は、他の成分・・それはビタミンかもしれないしミネラル、あるいはタンパク質や糖の一種かもしれません・・と結合している状態で、初めて効果を発揮するものだと考えています。
その成分が効果を発揮するか否かは、このリゾチームのケースでも量ではなく”質”。
そしてリゾチームにとって仕事がしやすい環境かどうか・・・だったと言えます。