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世界自然遺産の意外な盲点


鹿児島県奄美大島が世界自然遺産の登録を目指す上で、大きな問題が発生しています。

同島は『奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島』として登録を目指していますが、ユネスコの諮問機関に

「持続可能性に疑問がある」

として登録延期が勧告されてしまいました。

”持続可能性に疑問”というのは具体的に言うと、奄美大島に生息する国の天然記念物”アマミノクロウサギ”をノネコが補食していることが問題視されたのです。

アマミノクロウサギは絶滅危惧種であり、それが同島に推定600頭~1200頭生息しているノネコが食べているとなると、『現在の生態系が持続可能か疑問』というわけです。

そもそもノネコとは、野生化してしまった元飼い猫や捨て猫です。

特別な猫種ではなく、姿かたちはイエネコです。

しかし野良猫から野生化すると、”ノネコ”と呼ばれるようになります。

野良猫と呼ばれる頃は、まだ人間と接触することもあり、民家の近くをうろつき餌などを漁っていますが、野生化してしまうとあまり人前に現れません。

そこで奄美大島は環境省と共に、ノネコの管理に乗り出すことにしました。

”管理”とは捕獲し、1週間ほど飼い主を探し、見つからなければ安楽死させるということです。

猫がお好きな方や飼ったことのある方ならすぐに分かると思いますが、比較的人の近くで生活している野良猫でさえ、個体によっては人慣れさせるのは難しいのに、野生化した猫をいきなり譲渡するのは、全く現実的ではありません。

犬でさえ、野生下で産まれ育った個体を、人に慣らすのはプロのトレーナーでも難しいです。

しつけを入れるはるかに前の段階ですから、相手は”犬”というより”オオカミ”くらいの感覚です。

そのためトレーニングというより、まず人間とどう信頼関係を作るか・・というところからになり、非常に時間がかかります。

(場合によっては年単位で・・)

猫もしつけができないわけではありませんが、犬のようにしつけ教室や専門のトレーナーは皆無と言っても過言ではなく、気軽に相談できる環境にありません。

そもそも森の中で突然捕獲された猫の性格を、1週間やそこらで見極められるとは思えません。

場合によってはキャットフードなど食べてくれず、引き渡す前に病気になる可能性もあります。

(猫は犬と違い3日絶食が続くと、命に関わります)

そのため100歩譲って運よく飼い主が見つかったとしても、それがたとえ猫の飼育経験がある方であっても、ノネコを飼い慣らすことができるか・・猫にとってストレスが最小限の環境が作れるか・・というのは非常に疑問です。

(私なんかとても手を上げる勇気などありません)

『飼い主を探す』というのは、

捕獲⇒安楽死

だと風当たりが強いから、

「飼い主を探したんですけど、見つからなかったんです」

という言い訳づくりのように思えてなりませんが、実はお役所的には、強力な法的根拠があるので、さして気にしていないのかもしれません。

野良猫⇒動物愛護法によって保護対象になっている

ノネコ⇒鳥獣保護法によって駆除できる

人間の都合で野良猫やノネコになり、人間の都合で保護も駆除もできる。

『こういう法律があるから、違法ではありません。むしろ法律に従って環境を守っています』

というわけです。

実は小笠原諸島も自然遺産に登録される前に、やはり本土から持ち込まれた猫が野生化し、アカガシラカラスバトなどの貴重な野鳥が絶滅寸前になったことがあります。

この時は鳥類学者を始め、東京都獣医師会、各ボランティア団体等、多くの方が何年もかけて地道に活動し、絶滅危惧種の個体数が戻ってきた経緯があります。

・獣医師による去勢避妊手術

・比較的人慣れしている個体は本土へ運び、ボランティアさんが人慣れ修行をさせた後、飼い主さん探し

それ続けた結果、生態系が回復しめでたく遺産登録となったわけです。

少なくない予算が費やされ、多くの方の善意に支えられたのは事実です。

「東京都と地方自治体では、予算規模が違う。同じことはできない」

と言われればその通りでしょう。

ですが、人間の都合で野生化し、人間の都合で駆除されることに強い違和感を覚えます。

そこまでして世界自然遺産に登録される価値は?

珍しい兎は保護するが、どこにでもいる猫は殺処分しても良い命ですか?

生態系を乱したのは猫ではなく、人間です。

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