回答:ダメです!
『犬に食べさせても良い食品・ダメな食品』というようなサイトを良く見かけますが、ある有名サイトで獣医師が
「どうしても生肉にこだわる場合は、SPF豚を使用して下さい・・・と書いてあったから、取り寄せて生で食べさせている」
と言うご相談者がいらしたので驚き、早速そのサイトを確認してみました。
確かに書いてありました。
この一文の直前には
「安全面を考えれば加熱して与えるのが好ましい」
とも書かれていますが、たとえSPF豚であろうと、豚肉を生食すべきではありません。
基本的に生で食べられるのは、牛肉と馬肉のみです。
日本SPF豚協会のサイトのQ&Aにも「生で食べるべきではない」と書いてあります。
念のため”ペットが生食する場合”の見解を直接伺ってみました。
(非常に丁寧に教えて頂き、関係者の皆様には感謝いたします)
そして結論は・・・やはり「生で食べさせるべきではない」
誤解のないようにお断りしておきますが、決してこのサイトの獣医師を批判するつもりはありません。
栄養学的な見解の差であれば、様々な意見があっても良いのですが、豚肉の生食については、私たちも巻き込んだ重大な健康被害を引き起こす可能性があるのです。
全ての獣医師が食品衛生の専門家ではないので、勘違いされているだけかもしれませんが、ご相談者のように実際にお試しになっている方がいる以上、一刻も早く正しい情報をお伝えしなければと思いました。
しばしばSPF豚と無菌豚を混同しているケースも見受けられます。
SPF豚とは、Specific Pathogen Free(特定の病原体を持っていない)豚という意味です。
現在日本SPF豚協会で規制対象にしている疾病は、以下の5つです。
1.萎縮性鼻炎
2.豚赤痢
3.オーエスキー病
4.トキソプラズマ感染症
5.マイコプラズマ肺炎
これらの病気にかからないよう健康な飼育環境で育てられた豚ですが、薬を全く使っていないわけではありませんし、ましてや”無菌”ではありません。
そもそも”無菌状態”とは生物として非常に不自然なことです。
無菌マウスが、菌の影響を排除して目的の観察や実験をするために、特殊な環境で育てられるのと同じで、自然界ではありえない状況です。
より自然な飼育方法を取り入れている農家さんでは、飼育舎の薬剤消毒をしていない方もいるくらいです。
もちろん毎日小まめに清掃はします。
しかし薬剤消毒をしません。
薬剤消毒は、抗生物質を投与するようなもので、有用菌も死滅してしまうからです。
するとタイミングによっては、病原菌となる菌が繁殖するチャンスを作ったり、より病原性を強めた耐性菌が発生するリスクがあるのです。
その代わり、無農薬か低農薬で育てられた稲のわらを敷きます。
そこには自生する納豆菌が付いているからです。
大腸菌や赤痢菌などは、納豆菌の”好物”です。
食べるだけでなく、納豆菌にはこんな使い方もあるのです。
ちなみに上記豚肉の話を載せていたサイト内で、納豆について
『血を固まりやすくなるので、心臓が悪い犬には控えた方が良い』というようなことも書いてありましたが、これも疑問です。
確かに納豆菌が作るビタミンK2は、血を固める働きをするタンパク質(プロトロンビン)の合成に関わっています。(参照ブログ⇒ビタミンKのお仕事)
しかしご存じのように、納豆には血液をさらさらにする酵素”ナットウキナーゼ”が存在します。
例えば
①高純度のビタミンK2を
②単独で
③推奨量を超えて
④継続摂取した場合は、血液を凝固させる可能性もあるかもしれません。
しかし”納豆”という食品として摂取した場合は、犬の体内でもナットウキナーゼが働き、サラサラにしてくれます。
そもそもナットウキナーゼの働きを証明したのは犬です!
犬の脚の血管に人工的な血栓を作り、それを溶解させたことで証明されました。
ただ持病がある場合、薬との相性という観点から、納豆が治療の妨げになることもあります。
(そのような場合は、必ず医師の指示に従って下さい)
しかしこれは納豆に限ったことではなく、一般に”良い食品””良い成分”と言われているものでも、ある条件下では、良くない作用をすることはしばしばあります。
TVや雑誌で取り上げられていても、時間や誌面の都合上、全てを伝えきれないこともあるので、自分でよく確かめることも必要です。
また豆乳の欄では、注意点として『食後に激しく動くと胃捻転の原因になります』
という記載がありますが、これも豆乳に限ったことではありませんよね。
食後は何を食べても、激しく動くのは避けるべきです。
しかしこのような記載の仕方は、まるで”豆乳”が高リスクのような印象を与え、誤解を招く原因となると思います。
少々脱線しましたが”無菌”=”安全”ではありません。
もちろん究極的には、薬を一切使わないで育てられれば理想なので、農家さんもそこを目指していますが、規制対象以外の病気にかかることもあります。
その場合はもちろん、治療を行って大切に育てます。
ただ出荷前の一定期間は、薬剤の残留を防ぐため薬剤投与を禁止しています。
また健康に育つために必要最低限のワクチン接種も行っています。
それより問題なのは、SPF専用屠殺・精肉場がほとんどなく、一般飼育の豚と施設を共有していることです。
一般に、食中毒の原因となる細菌は、屠殺や精肉、そして流通時に付くことが多いのです。
豚肉で食中毒が起きる可能性のある細菌は
エルシニア・エンテロコリチカ菌
カンピロバクター菌
などいくつもありますが、比較的低温にも強いので冷凍しても死滅しません。
ちなみに「一度冷凍した肉は大丈夫」というのは都市伝説です。
(鮭やカツオなどに付く寄生虫アニサキスと混同している情報が出回っていますのでご注意ください)
また菌によって潜伏期間も様々なので、食べた直後は何ともなくても安心できません。
健康に育ったお肉は、豚だけでなく牛も鶏も雑味がなく、脂もすっきりしていてとても美味しいです。
しかし豚肉を安全に頂くためには、たとえSPFポークであろうと、中心部まで加熱する必要があります。