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さくら・こうじ・きじ


過去に一度だけ、ローストしたキジ肉を食べたことがありますが、独特のクセがありました。

しかし塩麹と桜の葉で漬けこんだら、美味しいかも・・・って、そういう話ではなくこの三つの共通点は、『国を代表するもの』

桜は国花。

麹は国菌。

雉は国鳥。

国花や国鳥はともかく、国菌!と驚かれる方も多いのですが、麹菌(アスペルギルス・オリゼー)がそれに指定されています。

和名は『ニホンコウジカビ』

味噌、醤油、日本酒、みりん、酢など、和食に欠かせない微生物です。

麹がなかったら、日本の食文化は全く別の物だったに違いありません。

ちなみに、味噌は縄文時代から作っていた形跡があるそうです。

ただ、現在のような大豆ではなく、どんぐりの実を使ったもの。

青森市にある三内丸山遺跡からも、植物の繊維で編んだポシェットや土器の中から木の実類は出土しています。

ポシェットは、採取用のカゴや袋代わりだったのでしょうが、土器は保存・調理用でしょう。

その中で偶然麹菌がついて発酵し、味噌風なものが出来ても不思議ではありません。

海に近く、漁も日常的だったので、いつもではないにしろ海水で木の実を洗ったこともあったかもしれません。

それなら尚更、味噌に近いものが出来る可能性は高くなります。

ただ、納豆もそうですが、最初に口にした人はすごい勇気だと思います。

麹菌は、デンプンを糖に変える酵素を作ります。

デンプン分解酵素アミラーゼは、人や犬も主にすい臓で作られます。

人間は唾液にも多少含まれるので、ご飯を良く噛んでいると甘みを感じます。

それが酵素の力によってデンプンが糖に変化した瞬間です。

しかし良く噛まないで食べたり、胃腸の働きが落ちていると、この酵素が十分に働かないので、消化不良や胃もたれを起こします。

そんな時に飲む胃腸薬の主成分は、実は高木譲吉博士が麹菌から抽出したものです。

その抽出物は『タカジアスターゼ』と名付けられ、夏目漱石も愛用していたのは有名。

当時、胃腸薬として海外で一般的に用いられていた消化酵素剤は、麦芽から抽出したものでした。

しかし麦芽に限らず、穀物から摂れる消化酵素は、どれも弱いのが欠点でした。

ところが麹菌から抽出した酵素は、それらの20倍も強く、季節や気候変動にも影響しない菌の培養で増やせたので、安価なのも魅力で、たちまち世界的なヒットとなりました。

ペリー来航(1854年)の年に富山県で生まれた高木博士。

幕末~明治の激動の時代に育ち、世の中は西洋流の技術を取り入れることに躍起になっていました。

しかし博士は母方が日本酒の醸造元だったこともあり、伝統的な醸造技術の素晴らしさに気づいていた一人でした。

そんな時代背景の中、伝統的な技術を追求する姿勢を貫くのは、今以上に大変なことであったと思います。

高木博士は、やはり麹菌から作る醤油の粉末化技術にも成功し、これは日露戦争の時大活躍したそうです。

(醤油のまま持っていくのはかさばる上、凍る恐れもあったから)

ちなみに麹菌はタンパク質をアミノ酸に変える酵素も作るので、米や大豆、小麦などを原料とした醸造発酵物を作るには最適です。

高木博士が抽出に成功した『タカジアスターゼ』は今も現役です。

病院で処方される薬にも、薬局で手に入るCMでおなじみの胃腸薬にも使われています。

そしてタカジアスターゼと並んで、100年以上に渡って未だに世界で使われ続けている薬は、あとペニシリンとアドレナリンしかありません。

しかしアドレナリンもまた、高木博士が世界で初めて分離に成功した人です。

『タカジアスターゼ』は製薬だけの分野だけでなく、ビール、ビネガー、パンなどの食品製造にも広く使われ、多くの富を得ました。

彼は、その富でワシントンD.C.に桜並木を寄贈しました。

麹菌と桜には、こんな素敵なエピソードもありました。

(雉はどこへ行った?!・・桃太郎さんと鬼退治に行っているそうです)

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