ひとことで≪納豆菌≫と言っても、その顔ぶれは多彩で数えきれません。
数千どころか、数万はあるでしょうか。(もっとかな?)
≪青カビ≫でも、ペニシリンのような薬になるものから、ブルーチーズのような食用、はたまた食中毒や発がん性のあるものまで存在するのと同じです。
納豆菌も1000年以上の食経験から、食用に適していてかつ味も良いものが選択されてきました。
稲わらについた自然任せの納豆菌で納豆を作っていた頃は、発酵に2~3日かかる上、その時の納豆菌の調子(?!)や周辺の菌バランスによって、出来具合に差がありました。
それが納豆菌だけを分離・培養できるようになった時『これなら食用納豆に使える』と大学の研究者が選び抜いたものは5っでした。
それを実際に納豆業者が試し、『味・糸引き・安定性』などを考慮した結果、二つの菌株に絞りました。
その二つの菌株から、近代納豆の歴史は始まりました。
ところが、近年の納豆ブームから多様な味や好みに対応するために新たな顔ぶれが増えています。
匂いや糸引きの少ないものにとどまらず、中には全く糸を引かない変異株もあります。
(納豆屋的には、糸をひかない納豆なんて不良品なんで、むしろ排除していた菌株ですが・・・)
一応、食用納豆菌と飼料用納豆菌というくくりがあります。
納豆菌は水質浄化や植物の病気防除にも使われることがあり、例え食用に向かなくても活躍の場は広がっています。
しかし大豆を納豆菌で発酵させたものが、全て”納豆”と言えるかと言うと微妙です。
なぜなら飼料用の納豆菌で発酵させたものには、”ナットウキナーゼ”の活性(働き
)が見られないものもあるからです。
納豆の定義として『ナットウキナーゼを生産する納豆菌で発酵させたもの』というのは重要です。
ナットウキナーゼとは納豆菌が作り出す酵素の一つで、1987年に日本で発見されたものです。
(まあ、納豆は日本独特の食品ですから(^_^;))
その血栓溶解効果は、現在脳梗塞や心筋梗塞の治療に使用される薬(ウロキナーゼ)より、長時間作用する結果も出ています。
ちなみに発症直後の患者さんには、20万~30万IU(国際単位)という量のウロキナーゼを投与しますが、納豆1g(3~4粒)は約1600IUに相当するというデータがあります。
単純計算で納豆から摂取するなら100gちょっとで、それに匹敵する量になります。
それだけに、いくら体に良いからと毎日大量に食べたり、医師から血液をサラサラにする薬を処方されている方は禁物です。
バランスのとれた食生活の中で、適量摂取した時、初めてそのパワーを発揮してくれるものです。(どんな栄養素、食材でもそうですが・・・)
ちなみにこのナットウキナーゼは、納豆菌が生産するものなので、大豆そのものには全く含まれません。
微生物学的に納豆菌は、枯草菌の亜種ということになっており、枯草菌もいくつかのプロテアーゼ(タンパク質やペプチド結合の分解酵素)を生産するため、確かに似ている性質はあります。
しかもその中には、ナットウキナーゼと非常に良く似た酵素もあり、現在一般的に使用されている活性測定法だと、それらも『ナットウキナーゼ』として拾ってしまう上に、『ナットウキナーゼ』として表示可能であるという問題があります。
しかしそれらとナットウキナーゼは、全く別物であることが判明しているので「納豆菌そのものを独立した分類にするべき」という意見もあります。
納豆にはこのナットウキナーゼの他、骨を強くし、腎結石形成を防止するビタミンK、細胞を若く保つポリアミン類、女性にはおなじみのイソフラボンなど、栄養の宝庫です。
また腸内環境を整えることは、全身機能の改善にもつながるので、人間だけでなく、特にシニア期のパートナーには、週1回でも食餌に取り入れることをお勧めしています。