top of page

ゴールドスタンダードは存在するか?


ペットフードを選ぶ際は、「AAFCO(Association of American Feed Control Offcials)の推奨基準値を満たしているものが良い」という話を聞いたことがあると思います。

あるいはパッケージに”総合栄養食”という表記のあるものを選びましょう・・とか。

ペット関連の学校や資格取得の際は、そう習いますので私もそれを信じていた一人です。

しかしAAFCOより先に、犬猫だけならず他の動物たちの食餌について、指標となる値を設定していた組織があります。

それはアメリカ科学アカデミーの学術研究会議、略してNRC(National Research Council)の動物栄養委員会です。

このNRCの基準については、『前時代的で科学的根拠のない基準』と習いました。

なぜならAAFCOでは、全て化学分析によって各栄養素を測定する方法をとっていたからです。

時代は、月面着陸に成功し「これからは科学技術の時代」と誰もが技術発展に夢を抱いていた頃です。

子供用の図鑑には「2000年頃には、月に住めるようになる」とそのイメージ図も載っていて、ワクワクしながら繰り返し読んだ覚えがあります。

やがて80年代に入ると、サプリメントブームが来て、特定のビタミンを大量に摂ることで病気を予防できたり、睡眠時間が少なくても簡単に疲労が取れる・・というようなやや錯覚した世論が蔓延しました。

いまでこそ、ミネラル類の最適量と毒性量の差が極めて小さいことや、どんなに良い成分でも過剰になれば害になることの理解は少しずつ広まっているように思います。しかし近年、エナジードリンクの過剰摂取で死亡事故が起きていることを見ると、食生活や生活習慣が乱れていても、『これを飲めば大丈夫』というような神話が未だに存在しているのかもしれません。

ペットフード業界にも同様の雰囲気がありましたが、1985年に改定されたNRCの”犬の栄養要求”には

「これこそ消費者が犬に食餌を与える際、栄養学的に正しいという根拠を得るための助けになる」という理由で給餌テストの必要性を載せました。

同時に「タンパク質源は質の高いものを使用すべし」

とも記載されています。

質の高いもの=安いトウモロコシや小麦由来のタンパク源を使いすぎるな!

という意味で、いわばペットフード業界に対する挑戦的な基準改定でした。

これにペットフード業界は怒りをあらわにしました。

ただでさえ厳しいと感じていた基準が、さらに厳しくなったのです。

これでは『売れる商品』が作れません。

そこでAAFCOは「NRCが新たな基準を決定するまでは、前回の1974年版を採用する」と決めました。

つまり「都合の悪い基準が設けられたので、今回のはなかったことにしよう!」と決めたのです。

そもそもAAFCOは、ペットフード業界が立ち上げた組織です。

そのため最初はNRCの推奨基準で、給餌試験も行われていたのですが、価格競争が熾烈な中、その基準をクリアすることが厳しすぎたため、機械で測る”化学分析”という手法に切り替えた経緯がありました。

その方がはるかに時間もコストも少なくてすみます。

またNRCの基準を守らなかったからと言って罰則があるわけでもなく、NRCがどういう点を問題視し、どういう根拠でその推奨値を出したかということは、一般消費者は知る由もありません。

そのためパッケージの表記が≪NRC推奨値≫から≪AAFCO推奨値≫になったところで、あまり影響はないだろうと考えていたフシがあります。

(実際なかったわけですが)

ただ、当時のAAFCOはすでに化学分析の限界にも気づいていました。

なぜなら同じ身長・体重でも、年齢、性別、住む環境の差、仕事の種類、食事の好み、喫煙や飲酒習慣・ストレスの有無などによって、適切な食事内容が全く変わるように、個体の消化率・吸収率・利用率は機械では測れないものだからです。

記憶に残るある栄養学者の言葉があります。

『栄養学的な決定は多くの要因がからんでおり、一つの単純な答えにはなりません。またどんな動物でもたった一つの最良の食事はありません。それゆえ、全ての要因を考慮すれば、その重要度・優先度に応じていくつかの解決策を見つけることができるでしょう。・・YESかNOかの二者択一の答えを期待する人には、ストレスでしょうが』

ペット達の最良の食餌を見つけるには、飼い主さんの観察力が命です。

例えば

「今日は病院へ行ってストレスだったろうから、好物のラム肉をトッピングしてあげよう」

「今日は寒いから鶏のスープをかけてあげよう」

「昨日、ちょっとウンチが臭かったから、納豆をまぜてあげよう」

その観察眼が、その日の最良の食餌(ゴールドスタンダード)を完成させます。

bottom of page