『食べ物で治せない病気は医者でも治せない』
これは紀元前5世紀のギリシャの医師ヒポクラテスの言葉です。
2000年以上前の医師ですが、医学を祈祷や呪術と切り離したことで、”医学の父”と呼ばれています。
医療者としての倫理や任務をギリシア神に宣誓するために書かれた”ヒポクラテスの誓い”は、医師だけでなく、あらゆる世界の”プロ”に求められる一文があります。
『私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない』
私も”患者”の部分を”私たちのパートナー”に入れ替え、いつも心に留めています。
悪くて有害と知っている事を、『価格が合わない』とか『今時そんなきれい事通用しないよ』という言い訳をしながら続けるなら、この仕事は辞めようと思います。
もちろん能力(技術)が足りない部分もあるし、判断がいつも完璧・・という訳でもありません。
しかし今日の常識が、明日非常識になるかもしれない昨今、常に学び、力の限りより良いものは目指したいと思っています。
そんな中、フード開発に至った一番大きな動機でもある”食の本質”とは何か?という疑問。
冒頭に挙げたヒポクラテスの言葉はその答えを目指す、大きな後押しになりました。
もちろん、抗生物質のなかった2000年前と違い、全ての病気が食べ物だけで良くなると考えていませんが、例え薬が必要な病気であっても食事が治療のバックアップをすることは多いと思います。
それは栄養面だけでなく、精神面にも大きく影響することは証明されつつあります。
『病気は自らの力を持って治すもので、医者はこれを手助けするものである』
少し前までは食事がとれない状態の時、点滴や胃ろうでカロリーや各栄養素を注入していれば大丈夫・・という考えでしたが、現在は出来るだけ本人の口から摂る看護に変わってきています。
噛むこと、唾液を出すこと、匂いを感じることなどが、様々な病気の回復に大きく作用していることが分かってきたからでしょう。
これは犬や猫の世界でも同じだと考えています。
犬や猫が、毎日同じ食餌を、毎日同じような量食べられるようになったのは、ごく最近のことです。
人間だって、栄養不足時代の方が長かったのですから。
ヒポクラテスの時代でも、ごくごく一部の権力者や富裕層には、栄養過多や食事の偏りによる成人病や肥満といった問題はあったかもしれません。
しかし一般人にそんな問題が起きたのは、ホモ・サピエンスの歴史の中ではごく最近でしょう。
ましてや問題が犬猫の世界にまで広がっているのは、”何かが間違っている”と考えなければなりません。
以前このブログ(⇒猫の貴重さ)でも取り上げましたが、特に猫の肥満というのは色々な意味で深刻です。
(だからと言って犬の肥満は大丈夫ってわけではありませんよ~)
ヒポクラテスの時代でさえ、
「病気は運動療法と食事で治せる」
と言われていたように”食事”と”運動”というのは本来切り離せないものです。
食事は運動=狩の後だったのに、今は人間も動物も運動の機会が減っています。
そしてエアコンの普及で一年中問題になっている”隠れ脱水”
汗をかく機会が減ったことで、喉の渇きを感じることが少なくなり、自覚がない水分不足による体調不良が増えています。
これはエアコンの効いた室内にいることが多くなった犬猫でも問題になりつつあります。
単純なカロリー制限や、お腹で膨らむかさ増し剤入りフードに変えても、私たちのパートナーの脳は満たされません。
むしろ飢餓感が募り食べ続けます。
それは脳が、その食餌の本質を見抜いているからです。
代謝に必要な水分も、食材に本来含まれているはずの栄養素もない。
(合成ビタミンやミネラル、訳の分からない添加物は過剰なくらいあっても)
簡単・便利な世の中になっても、体はそう簡単に適応できません。
しかし私たちもカレールーや○○の素を使うように、便利になった部分は享受しながらも≪旬の食材≫で季節を過ごすこと。
また季節や体調で食べたいものが変わるように、どんな時にも対応できる完全な食事はないと考えること。
それを日々意識するだけでも、犬たちの健康寿命はずっと伸びると考えています。
最後にもう一つ、ヒポクラテスの言葉でこのシリーズを締めたいと思います。
『食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか』