『大腸菌』と聞くと、「汚い!」「バッチイ!」と思われる方も多いと思います。
しかしO157を『病原性大腸菌』と呼ぶように、ほとんどの大腸菌は実は人に害を与えることはありません。
感染してもほとんど無症状や軽い下痢で済む人もいれば、ひどい下痢を起こし、時に尿毒症や脳症を起こすこともありますが、保菌する牛が増えたことで、これだけ人にも広がっているのでしょう。
牛はO157に感染していても、特に症状はありません。
しかし人間の体内に入ると胃酸でも死滅せず、土の中や水中では最大数か月も生きられます。
なぜここまで強い大腸菌が出現したのでしょう?
いくつかの要因がありますが、最も大きいのはトウモロコシのような糖質の多い餌を食べるようになったからだと言われています。
ご存じのように、牛は本来”草”を食べるものです。
”草”にも、当然糖質は含まれていますが、トウモロコシとは比べものにならないくらい少ないです。
糖質の多い餌が増えると、牛の腸内の酸性度が上がります。
するとそこに存在していた腸内細菌群は、生き残りをかけて、より強い酸性環境に適応しようとします。
その結果、大腸菌は、赤痢菌と協力しあうことにしたようです。
赤痢といえば、日本でも戦前は蔓延していて、大変恐れられていました。
O157はベロ毒素を出すのが特徴ですが、この毒素に赤痢菌の遺伝子がコードされていることが判明しています。
牛の体をより早く、より大きくするため。
あるいはより多い乳量を得るため、トウモロコシなどを混ぜた”高栄養飼料”を与えるのが標準的な育て方になった昨今。
それは牛肉や牛乳を始めとした乳製品の大量生産・低価格を実現しました。
しかし一方で、大腸菌をより強く、時に命を奪うほど鍛えてしまったとも言えます。
家畜や農産物が健康に育つために必要な時間や手間を、”効率化””コストカット”の名で省いてきた代償は決して少なくないと感じます。
最近、グラスフェッドバターやグラスフェッドビーフが注目されています。
牛本来の食性、牧草だけを食べて育った牛から採取した牛乳のバターやお肉です。
高栄養飼料で肥育された牛に比べると、体重の増え方もゆっくりなので、肥育期間が長くかかります。
そのため価格は高いですが、健康に育つための時間・手間を省いた代償は、一周回って必ず私たちに返ってきます。
健康であるための食事は、健康に育った家畜・農産物で構成されることが非常に大切だと考えています。