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酸性尿とアルカリ尿(vol.2)~マグネシウム制限とアンモニアの弊害


結石症を含む腎臓に関するお悩みは食餌管理が不可欠で、多くのご相談を受けますが、時として情報が正しく伝わっていなかったことによる勘違いに遭遇することもあります。

例えば・・・

「おたくのフードにはマグネシウムは入っていますか?」

答え:成分調整のためのマグネシウム添加は行っておりませんが、原料由来のマグネシウムは含まれています。


しかしこの回答に対し

「何でどこのメーカーもフードにマグネシウムが入っているのかしら!獣医さんに”マグネシウムは絶対ダメ”って言われているのに。何でゼロのやつないの?!」

と速攻で電話を切られました(;^ω^)

どんな状況であっても、食餌からマグネシウムをゼロにすることはできません。


結石形成のカギとなる三大成分は『マグネシウム・リン酸・アンモニア』です。

そのため、確かに高すぎるマグネシウムは問題です。

特に猫は腎臓疾患が多く、マグネシウムと腎機能の関係の研究は進んでおり、一時期かなり低いマグネシウム量でキャットフードが製造されていた時代もあります。


しかし尿へのカリウム排泄が進みすぎて、低カリウム血症が多発しました。

(※低カリウム血症:軽症であれば筋力低下・嘔吐・便秘等ですが、重い場合は不整脈・呼吸困難・四肢麻痺など命に関わります)

同時に、カルシウムの排泄は減少するので、シュウ酸カルシウム結石の発症が増えてしまいました。

何事もゼロか100かというのはない典型的な例だと思います。

クランベリーに膀胱炎防止効果があるか?

昔から欧米ではクランベリーが、膀胱炎に良いとの話があり、

「結石予防になりますか?」

「尿中phをコントロールするためのお薦めサプリはありますか?」

というご質問もよくお受けします。

クランベリーに豊富なキナ酸が、膀胱内の細菌感染に効果があるのではないかと言われています。

しかしキナ酸を含む果物は他にもあり、クランベリーが特別高いわけでもありません。

とはいうものの、伝統的に使われてきたものは、経験的に効果があったからで、

キナ酸と他の成分のバランスが膀胱内の殺菌に抜群!

という黄金比率を持っている果物なのかもしれません。

あるいはクランベリー特有の未知の成分が関与している可能性もあります。

しかし

「果物や野菜は体をアルカリ化するから、そういう物から摂取するのは良くない。リン酸塩は、保存料としても優れ、尿も酸性化してくれるので、それが入っているフードの方が良い・・・と勧められたが納得できない。本当なの?」

とのお話には、思わず唸ってしまいました。

(そんな話が出回っているのか?!とまず驚きました。様々な考え方があるとはいえ、ホント難しい。。。)


確かにリン酸塩は酸性化物質です。

そのため食品では『PH調整剤』とか『乳化剤』というような表記になっている場合もあり、日常にあふれています。


アミノ酸調味料のように、旨味も増すので食いつきが良くなるメリットもあります。

しかし獣医師が治療に必要だと判断して、一定期間だけ酸性化薬を投与するならまだしも、それと同様の効果を期待してフードで毎日摂り続けるのは、疑問が残ります。

ちなみに≪リン酸≫と≪リン酸塩≫は別物です。

天然でもリン酸塩の形で存在しますが、他の多くの成分同様、合成したリン酸塩と同じではありません。

極端な話、現在の合成技術を持ってすれば、ほとんどの食品成分をサプリメントで再現することができます。

糖質・脂質・タンパク質に、各種ビタミン・ミネラルを配合して・・・。


例えば冒頭の写真のように、新鮮なグレープフルーツと何種類ものサプリメント。

栄養的な数字は同じでも、これが日々の食事代わりになるとは思えません。

結石形成三大成分のうち最もノーマーク!アンモニア

犬猫は、人間に比べるとタンパク質の要求量が高く、それだけ日々腎臓に負担がかかっています。

動物性タンパク質の中で、特に含硫アミノ酸やリン酸などを代謝した時、酸性物質(老廃物)が発生します。

それを腎臓から排出する時、アンモニアが発生するのです。

アンモニアは、腎臓の細胞に毒性があるため、できることならあまり発生してもらいたくありません。

そのためアンモニアの発生が少なくなるような食餌をすることで、腎臓の負担を少なくすることができます。

単純にタンパク質量を低くしても、アンモニアの発生を抑制することはできません。

タンパク質の量≫ではなく、≪質≫に注目することが大切です。

なぜなら質の高いタンパク質は、分解されても腎臓が排泄しなければならない老廃物(尿素・リン・硫黄)にはあまりならないからです。

タンパク質の質の高さを見る指標はいくつかありますが、一番メジャーなのはアミノ酸スコアでしょう。



100が上限で、100だと各種アミノ酸がバランス良く構成されているタンパク質だと見ることができます。

ネットで検索すると、結構古い(1970年代)スコア表を基にしていたり、生物価と混同しているものあるのでご注意下さいね。

また各アミノ酸の基準量にいくつかの説があり、どれを採用しているかでも若干の差があります。

ですから”90以上”だったら、『高い!』

”80”以上だったら『なかなか高い!』

くらいの目安でいいのではないかと思っています。

※生物価=保留窒素量÷吸収窒素量×100

  吸収窒素量=摂取したタンパク質から便として排泄された窒素を引いたもの

  保留窒素量=吸収窒素量から尿中窒素量を引いたもの。すなわち体に留まったもの

アミノ酸スコア100のタンパク質は、上記の樽ようなイメージです。

側面の板一枚が、一種類のアミノ酸に例えられます。

例えば、鶏肉・豚肉・牛肉・魚などは”100”

どのアミノ酸も必要量を満たしているということになります。


牛乳・卵・大豆も100です。

(※大豆が73とか86というような数字もよく見ますが、現在は国際的にも100と認められています。また加工時に減損するという説もありましたが、近年の研究では豆腐・豆乳・納豆などの大豆加工品も”100”と認められています。むしろ浸水・蒸煮・発酵等という過程によってより消化が良くなる、との判断で評価が高いです)

逆に、オーツ麦は”65”、米は”64”、トウモロコシは”45”です。

側面の板の何枚かの上部が、少し欠けているイメージです。

欠けていると、そこから中身が漏れてしまいますね。

いくら水を入れても、常に一定量しか溜まりません。

”100”の量の水を溜めるには、樽がもう一つ必要になります。

「猫は完全肉食」という言葉の誤解

穀物に限らず、野菜や果物もアミノ酸スコアは総じて低いので、植物性原料が多すぎるペットフードは良くない・・と言われる根拠はこのへんが理由です。


植物原料そのものが必要でない、良くない、と誤解されている向きもありますが、決してそんなことはありません。


完全肉食と言われている猫でも、『肉だけの食餌』にする実験をしたら全頭病気になりました。

植物原料のタンパク質が利用できない代謝機能になっているだけで、植物原料に含まれるタンパク質以外の栄養素の中には、猫が必要としているものもあるのです。

(※犬は植物原料のタンパク質も利用できます)

質が低く、消化吸収率の悪いタンパク質を摂るとどうなるのか?

1990年以降、WHO(世界保健機構)とFAO(国際連合食糧農業機関)は、アミノ酸スコアの信頼性をさらに高めるため、消化吸収率を加味したものを推奨しています。

どういうことかと言うと、食材中心の数値判断だったものが

『それを動物が摂取した時に実際どう使われているか』

も考慮することで、より現実的な数字にしようという流れが出てきました。

もちろん消化吸収率は、同じ個体でも毎日変動するものです。

ちょっとした精神的な影響で食欲が湧かなかったり、雨の日が続いて運動不足だったりしても変化があるので、あくまでも平均的な状態での消化吸収率をアミノ酸スコアにかけて評価しています。

タンパク質消化吸収率補正アミノ酸スコア=アミノ酸スコア×消化吸収率

これは”1”に近いほど満点です。

大豆、牛乳、卵はこの評価で見ても満点です。

肉類は0.9前後。

大豆と同じ豆類でも、えんどう豆やいんげん豆は0.7くらい。

小麦に至っては0.4台です。

つまり質が低く、かつ吸収率の低いタンパク質で体を維持しようとすると、食べる量を増やす必要があるのです。

食べても食べても満足しない理由

食べる量が増えれば、当然摂取カロリーは多くなりますから体重は増える。

でも脳は『必要なアミノ酸が足りていないよ~』

という信号は出し続けますから、また食べてしまう。

しかし腎臓や腸では、まるで川で砂金を採るような作業が行われています。

川底から砂をすくい、砂(食べ物)をふるいにかけながら金(タンパク質)を見つける・・・。

この時間と労力が、タンパク質を代謝する時の”負担”や”老廃物”にあたります。

よく結石好発種と言われる犬種や慢性腎炎を起こしやすい猫は、体質的にこの作業が苦手ということだと思います。

苦手ならば、環境を良くして作業しやすくする・・という発想にすれば良く

例えば


☆水温が温泉並みの温かさの川で作業する(⇒冷えが原因で膀胱炎や結石症を起こす場合、食餌や散歩後の飲み水を体温くらいの温かさにする)

☆砂金ではなく、金塊が見つかる川で作業する(⇒質の高いタンパク質を摂る)

☆砂を流す水量を増やす(⇒食餌の水分量を増やして多少の余計なものは早く流せるようにする)

”体質だから”と諦めるのではなく、

”体質だから気をつけよう”くらいの気持ちで続けると飼い主さんもストレスなく過ごせると思います。


そしてどんな疾患も、症状が出ている臓器が原因とは限らず、総体的に見ることが大切です。

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