『アルカリ食品を摂ると健康にいい』
『酸性体質になると血液がドロドロになる』
というような話を耳にしたことがあるかもしれません。
また結石症を経験した犬・猫の飼い主さんにとって
尿のphはいつも気になると思います。
アルカリ尿になると結晶を作りやすい?
確かに、そのような説は様々なところで見かけます。
しかし獣医師によっては
「尿のphコントロールが、必ずしも結石予防とならない」
という意見もあり、本やネットで多くの情報に触れ、混乱した方がご相談にみえることもしばしばあります。
自分自身せっかちな性質なので、つい
「で、結局どっちなの?!」
と二者択一の答えを求めたくなる気持ちもよく分かりますが、生物の体はそう単純ではなくて・・・・。
体内で厳格に守られている酸とアルカリバランス。わずかな崩れが生命に直結!
まず基本的な前提として、”酸”とは水素イオン(H+)を含む化合物で、酸性反応を示すもの。
”アルカリ”とは水酸化物イオン(OH-)を含む化合物で、アルカリ反応を示すものです。
この両方が結合すると”水”(H2O)になり、物質は中性(=ph7)となります。
水の他に中性を保つ食品は少ないですが、天然の油脂類、バターなどもphは7です。
『水と油』というと非常に相性が悪いものの例えとして使われますが、自然界では数少ない中性仲間です。
(注:いわゆるサラダ油など、精製されたオイル類は水素イオンを含むので”酸性”です)
動物の血液と体組織の大半は、ph7.4に保つよう常に調整されています。
ph7が中性で、数値が高くなるほどアルカリ度が強くなり、数値が低いと酸度が高いと言えます。
酸とアルカリバランスが体内で厳密に保たれている理由は、それだけ生命に直結しているからです。
例えば、麻酔や病気等で、肺の換気量が落ち、血中の二酸化炭素量が増えすぎると、血液は酸性化していきます。
また腎機能が落ち、腎臓で老廃物を十分に濾せない状態が続いた時なども、血液は酸性化していきます。
phは、運動(筋肉に乳酸が溜まることでも酸性化します)や食事後の代謝が行われている時など、一日の中で微妙に変動しているものですが、その変化はごく小さなものです。
ph7.3以下になるとなんらかの症状が出始め、ph7を下回ると昏睡状態になります。
逆にph7.7以上のアルカリ性に傾くと、痙攣発作などを起こします。
このように高い緩衝能によって、弱アルカリ性に保たれている体。
それを維持するために、各臓器や周辺細胞組織は、余分な酸や過剰なアルカリ(=塩基)を排出したり、時には足りない塩基を取り入れたりしてバランスを取っています。
しかし、この高い緩衝能ゆえの問題もあります。
周辺組織やその細胞液が最大限に酸性物質を抱えているお蔭で、血液が正常phを維持しているケースです。
これは一見数字上は問題がなさそうに見えるものの、体内では少しずつ変化が起きている状態です。
しかしまだ排泄物(尿・便・汗・呼気など)で調整が出来ている範囲と言えます。
そう考えると排泄物の一つである尿のphに、
「あまり神経質にならなくても良いのでは・・」
という意見は、このような根拠も加味して言われていることだと思います。
実際、血中phと尿中phは、必ずしも一致しません。
『全身のphバランスを保つ為に調整された結果が、尿と共に排出されている』
とも言えます。
ここでまた一つ、体の複雑な緩衝能ゆえの問題があります。それは
『尿中にアルカリ性物質(=塩基)が出ているから、体内のアルカリ性物質が過剰』
という単純な話にはならないということ。
過剰な酸の排出をする際、塩基を多く消費します。
それゆえ欠乏した塩基を補給すべく、一気に体がアルカリに傾くこともあるのです。
どちらにしろ尿がたとえ酸性であっても、長期間一方のphに振れたままなのは問題です。
食餌だけが原因ではない!交感神経と副交感神経、どちらが優位に働いているかによっても変動する尿中ph
原因が何であれ、phが一方に偏ったままなのは、どこかに無理がかかっているサインであるのは間違いありません。
もちろん食事によっても変動しますが、酸性度の高い食材を食べたからと言って、血液や尿の酸度がすぐに上がるという訳ではありません。
例えば、激しい運動をして筋肉に乳酸が溜まっていくと、”疲れ”を感じます。
アスリートにとっては、この乳酸蓄積をどう解消していくかが、パフォーマンスの良し悪しに影響すると言われていました。
しかし最近の研究によると乳酸は、エネルギーとして再利用できることが判明したそうなので、単純な”疲労物質”とも言えないことになります。
そしてこの『筋肉に乳酸を溜める』機能は、生体phを守る上で重要です。
なぜなら血中にいきなり大量の乳酸が増えると、脳を始めとした全身の臓器が機能不全に陥る危険があります。
しかし筋肉に一旦保持されるワンクッションがあるお蔭で、運動によって発生した乳酸が、一気に血中に放出されるのを防いでくれるのです。
とはいえ過剰な酸性状態が続き、排出すら追い付かなくなると、バランスを取るための塩基も足りなくなり、徐々にphが保てなくなる場合があります。
こうなると内臓に負担がかかり、
”疲れやすい”
”食欲不振”
”食欲亢進”
といったような体調の変化を感じることもあります。
穀物の多い食事は尿のアルカリ度を高めるから、肉がメインのフードでなければいけない?
そのような考えもありますが、穀物類は肉類同様、むしろ体の酸度を高める食品であることは多くの研究で認められています。
体液の酸度を上げることが、尿の酸度を上げることに直結しないのは、このことからも分かります。(他の要因も複雑にからんでいます)
『それは人間の体の研究では?』
というツッコミもあるでしょう。
確かに、人体での研究が多いですが、かなり大規模な牛や馬の研究でも同じ結論が見られます。
すると
『牛や馬は草食動物だから、肉食のイヌやネコとは違うのではないか』
という疑問もあるでしょう。
しかし馬や牛も本来、積極的に穀物を食べる動物ではありません。
各種研究の結果を総合的に見る限り、種の違いより哺乳類全般の傾向として見ることができると思います。
どんな動物も、糖質・タンパク質・脂質は必須です。
ただ、どんな食物からそれらを摂取するか の違いはあります。
また種によって、”過剰になるライン”にも差があります。
その上個体差だけでなく、季節・体調によっても、消化率や栄養吸収率に差があります。
例えば、油汚れがこびりついてベトベトのガス台とフライパンでは、どんなに良い食材を使っても、素材の良さを生かす料理は出来ないでしょう。
不完全燃焼の赤い炎が不均等に当たり、酸化した油汚れが付いたフライパン・・・
そこでA5ランクの牛肉を焼いても、美味しく頂けるとは思えません。
酸性状態が続く体は、まさにそのような状態で、いくら良い食事を摂っても、充分な消化が行われず、必要とする栄養吸収も進みません。
同じものを食べていても、ph変動に差が出るのはそのような体内環境の差も考えられます。
(続く⇒vol.2)