先日、イタリアに住む友人が里親になった犬(ボクサー)の栄養相談を受けました。
2歳の彼は、分かっているだけで牛・豚・鶏・羊・鮭・小麦・とうもろこしにアレルギーがあります。(ヨーロッパの多くの国では、馬肉を食用にするのは非常に抵抗があるようで一般的ではありません。そのため馬肉のアレルギーは調べていないとのこと)
それ以上に、「人慣れはしているが、どこか不安げで、やや人間不信と思われる態度が気になっている」と言っていました。
ケースワーカーを仕事にしている彼女の観察力は、犬猫相手にも発揮され、いつも驚かされます。
8歳になる先住犬(ウエスト・ハイランド・ホワイトテリア)や、近所の犬とのコミュニケーションは問題ないとのこと。
そこでより良い環境と運動量を増やすために、郊外の庭付き一軒家に引っ越すことにしました。
ところが、引っ越しの数日前になったら、人間不信というより今度は”分離不安”気味だと言います。
夜中まで荷造りに追われる中、ぴったり付きまとい落ち着かない様子。
そしてついに引っ越し前夜のこと。
大きな体で四六時中くっついて歩くので、家具を梱包する間は危ないからとリビングにあるサークルに入れ、リビングのドアを閉めて作業をしていました。
するとほどなくして、ドアをひっかく音がし、続いてド~ン!と鈍い音と共にドアをぶち破って現れました。
引っ越し前夜にリビングのドア破損。。。
その弁償費用は痛かったのですが、サークルを易々と飛び越えドアに体当たりした本犬(?!)にたいした怪我がなかったのは幸いでした。
翌日、念のため獣医師に診てもらい、一連の経過を話したところ
「引っ越しで置き去りにされ、保護施設に収容されていたのではないか?
そのトラウマで神経不安症なのではないか」
という話になり、向精神薬を処方されたのこと。
少し前のデータになりますが、2010年イギリス国内で、精神的な病気と診断された犬猫は62万3000頭にも上りました。
食欲がなくなる。
体重が減る。
ダルそうにしている。
年齢的にはまだ若いのに、いつもより寝ている時間が多い・・・
このような症状を見たら、まず消化器系の病気を疑うでしょう。
シニアなら心臓の病気とか。
しかし血液検査やエコー検査をしても、即治療が必要な”異常事態”は見つからない。
そのような犬に、アメリカ・タフツ大学獣医学部のある獣医師が、同僚の反対を押し切って抗うつ剤を飲ませてみたところ、劇的に回復しました。
『犬猫が、人間と同じような感情・精神状態を持っていると考えて扱うのは危険』
との意見は、今もしばしば言われることです。
しかし上記の結果を、偶然で片づけることができないほど、同じような犬猫たちがいたことから、本格的な研究が始まりました。
現在は”動物行動薬理学”という分野の研究がかなり進んできており、多くの動物が人間と同じような精神的な問題は起こり得るとしています。
不安神経症・強迫的な行動・神経過敏症・恐怖症・病気や怪我など身体的なストレスからくる問題など。
犬猫の脳や神経伝達機能は、人間と非常に似ています。それを考えれば当然ともいえ、否定することの方が”科学的”ではないと思えます。
(これを否定してしまったら、人間用の薬の治験を犬猫で行っている根拠がなくなってしまいます)
ちなみにイギリスでは、約90万頭の犬猫がストレスや感情的な問題が原因の食欲不振や胃腸障害(下痢・便秘・嘔吐等)に陥ったというデータもあります。
精神的な疾患や問題には、薬による治療と共に運動や行動療法も効果的であるのは人間と一緒です。
本犬や本猫から直接問診できない難しさはありますが、感染症や内臓の病気の可能性が排除された時は、精神的なストレス等も体調不良の原因に考える必要がありそうです。
ちなみに友人のボクサーは、日光浴や運動、食餌管理に加え、最小限の投薬によって落ち着いた毎日を送っています。
本犬が不安からくる行動で怪我をしたり、精神的に辛い毎日を過ごすより、適正な投薬を続けて穏やかな毎日を過ごす方が、良い結果を生むこともあります。
90万頭という数字は、あくまでもイギリス国内における数字ですが、看過できない多さです。気になる症状がある方は、一度獣医師に相談されることをお勧めします。