センメルワイス反射
- 青い森工房
- 2017年9月16日
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哲学の世界では
『旧来の通説やその時代を支配している考え方・見方に反する新しい知識への手のつけられないほどの拒絶』
をセンメルワイス反射と呼ぶそうです。
センメルワイスは、ハンガリー出身の産科医でしたが、1840年代後半に今では当たり前の”手洗い”の重要性に気づき推奨した人でした。
現在では想像もできないことですが、当時ウィーン総合病院では、医師が血の付いた白衣を着て、手も洗わずに次々と素手で患者を診ていました。
血の付いたままの白衣の方が、”出来る医者”のように思われ、むしろ誇らしげだったと言います。
そして検死解剖の後でさえ、手も洗わず、次々と患者を診ることが、”かっこいい”と信じられていたフシさえあります。
まだ当時は、微生物が病気の原因と理解されておらず、3人に1人が産褥熱で亡くなるような時代でした。
そんな時、センメルワイス医師は、医師が研修している病棟と、助産師が実習している病棟では、死亡率に3倍もの差があることに気づきます。
そこで、解剖の後は必ず白衣を着替え、手を次亜塩素酸カルシウムで洗うことを徹底させました。
すると死亡率は、なんと90%も下がり、助産師の実習病棟と同じレベルになりました。
これだけの結果を残したわけですから、さぞかし尊敬された・・と思いきや、彼は医学界全体から敵視されることになりました。
その理由①
当時病気は”悪い空気”が原因で、衛生状態とは無関係という”古代からの医学的知識”を否定するものだったから。
理由②
手洗いすることは病気防止に、”どのように効いているのか”センメルワイス自身が説明できなかったから。(実際、効果があることは実証していたのに、そのメカニズム=病原性の細菌類を洗い落すこと・・・を証明できなかったことを責められた)
理由③
感情的な理由ですが『紳士である医師の手が汚いだの、助産師の方がきちんと仕事をしているから死亡率が低いだの』と、とにかく医者のプライドを傷つけたから。
今では一般人でさえ手洗いの重要性は知っているので、ちょっと信じられないでしょうが、私たちの常識の中には50年後、100年後の人たちに笑われるようなものもあるかもしれないと思うと、当時の医学界を笑えません。
しかしセンメルワイスは、手洗いを推奨したことでウィーン総合病院を解雇されました。
そして故郷ハンガリー・ブタペストの小さな病院へ移ります。
しかしウィーン帰りのエリート医師として迎えられたわけではなく、医学界を敵に回した”厄介者”という立場だったので、給料なしの”産科名誉部長”というポストでした。
この病院でも、産褥熱は猛威をふるっており、早速手洗いを徹底させたら、病気自体がほとんどなくなりました。
それでも病院の医師たちは『バカバカしい』と言って受け入れず、激しく非難され続けました。
センメルワイスは、ついに重いうつ病になり入院。
失意のうちに亡くなります。
丁度、微生物学者たちが、微生物が多くの病気を引き起こす原因になりうることを証明し始めていた頃でした。
この話に、患者不在なのが気になりました。
一番危険を被っていた患者にとって、理論的証明はなされていなくても、明らかに効果があった”手洗い”。
患者の健康より、自分たちのプライドや常識を優先させています。
業界の権威や利益に反するものは、正しいものでも徹底的に排除。
センメルワイス反射は、現代でも起こっているのではないでしょうか。
しかしいつも被害に合うのは、わたしたち一般人です。