6年くらい前のこと。
養殖魚の配合飼料に使用する魚粉に関わったことがあります。
近年、イワシの漁獲高が減り、飼料に配合する魚粉も高騰していました。
そのため大豆などの植物性タンパク質も組み合わせて、飼料価格を抑える研究もされていました。
同時に、養殖魚の皮膚(うろこ)の異変や行動異常、肝臓が緑色になる病気などが増え、様々な憶測や噂が渦巻いていました。
『魚に魚を食べさせる(共食い)から、狂牛病のようなことが起こっているのだ』
というような過激な意見まで出て、それをネット上でもっともらしく後追いしているものもありました。
しかしご存じのように、マグロなどの大型魚類はイカやサバが大好物です。
海洋動物で、補食する種は多く、上記のような指摘は、ややお門違いと言えます。
むしろ、大豆のような本来そこにあるはずのないものを食べさせることの方が問題でしょう。
ヒラメは普段海底近くにじっと潜み、食事の時だけ俊敏に動く、まるで猫のような魚だなあ・・と感じた覚えがありますが、養殖場では、海面近くまで上がってきてウロウロ泳ぎ回っています。
ヒラメやタイ、鮭など白身の魚は、瞬発力勝負が多く、マグロやカツオ等赤身の魚は泳ぎ続けることができる持久力に優れたタイプと言えます。
そのため確かにヒラメにとってこれは”不自然な行動”ですが、何か理由があるはずです。
同時に起こる、肝臓が緑色に変色する症状。
消化器系で、”緑色”と言えば、≪胆汁≫
このサイクルのどこかで、何か問題が起きているのだろうと推察できます。
ヒラメ⇒猫に似ている・・という連想から、餌が見えなくて(網膜変性)ウロウロしてる?
まさかタウリン不足?
植物性原料には、タウリンは一切含まれません。
胆汁に含まれる胆汁酸はタウリンとくっつくと、水に溶けやすくなり、小腸での脂質溶解度が上がり、吸収を助けます。
そのためくっつくタウリンが足りないと、行き場のない胆汁酸は停滞して、ついには肝臓全体を緑色に染めるまでになってしまうことが分かりました。
ということで、現在は養殖魚の配合飼料に合成タウリンを添加するようになりました。まさにキャットフードと同じような経緯を辿ったのです。
実はこの胆汁酸とタウリンの関係は、大腸細菌叢の健康維持の第一関門でもあり、我々だけでなく、犬猫の健康においても示唆に富んでいます。
なぜなら、胆汁酸が小腸で十分に吸収されない⇒大腸に到達する胆汁酸が多すぎる
結果となり、細菌叢や大腸細胞膜に悪影響が及びます。
脂質を多く含む食事をとると、胆汁酸もそれに比例して多く供給されますが、その際くっつくタウリンも充分にないと、小腸での仕事が非常に効率の悪いものになります。
その結果起こるのが、”大腸に未消化のまま届くものが多すぎ!”事件です。
未消化のタンパク質・脂質やら、水に溶けにくい状態のままの胆汁酸など・・・。
タウリンと抱合していた胆汁酸は、大腸内の細菌によって切り離され、適切に処理。
タウリンは大腸と肝臓を結ぶ大きな血管によって、肝臓に戻されます。
ところが、小腸から内容物を引き渡されたばかりの大腸上部で、予定外のお届け物にてんやわんやしていると、肝臓へ向かう重要な血管に、本来送るべきタウリン等、必要不可欠な物質以外も紛れ、肝臓に誤配送が起こります。
こうなると腸内細菌全体どころか全身の健康に大きく影響してしまうのです。
心臓や脳、網膜など重要な器官の異常は、症状として分かりやすいので注目されやすいですが、肝臓や腸での異常は目に見えてくるまで、時間がかかります。
そして、全身コーディネーターであるタウリンの働きもまた、少しずつ、徐々にしか仕事ぶりを見せません。
一度に大量に取っても、コーディネーターは自らをコーディネートして、尿と一緒に排出してしまいます。
(続く⇒vol.2)
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