グルタミンとグルタミン酸とグルタミン酸ナトリウム。
ニコチンとニコチン酸とニコチンアミド。
イーストとイーストフード。
似たような名前で、まぎらわしいですよね。
うっかりすると混同していることもあるかもしれません。
今日はそんな面々を”全くの他人”なのか”親戚”なのか、はたまたクラスメートくらいの関係なのか、順を追って簡単に整理していきます。
グルタミンとグルタミン酸とグルタミン酸ナトリウム
グルタミンとグルタミン酸はアミノ酸の一種ですので、仲間とは言えます。
アミノ酸という名のクラスの同級生といったところでしょうか。
(同じクラスに在籍してはいますが、それぞれ家庭があって別人格みたいな感じ)
多くの食材に含まれ、他のアミノ酸と合わさって、その素材の旨味を生み出しています。
しかし味も違えば、グルタミン酸の一部をグルタミンが構成している・・ということもありません。
全く別物です。
ただグルタミン酸ナトリウムは、グルタミン酸にナトリウムを人工的にくっつけた物質で、アミノ酸調味料の主成分でもあります。
つまみなしでお酒を飲むと悪酔いする理由
続いて、ニコチンとニコチン酸とニコチンアミド。
ニコチンはご存じの通り、煙草に含まれる有害物質ですね。
煙草には200種類以上の有害物質が確認されていますが、その筆頭と言えるくらい有名人。
しかしニコチン酸は、ニコチンアミドと共にビタミンB3(ナイアシン)を構成しています。
もちろん煙草に含まれるニコチンとは、似ても似つかない別物です。
年末年始はどうしてもお酒の席が増えますが、アルコールを体内で分解する時、アセトアルデヒドが作られます。
これが二日酔いの犯人でもありますが、ナイアシンはこのアセトアルデヒドを分解してくれるのです。
普通の食生活をしていれば、ナイアシンが著しく不足することなどまずありませんが、お酒を飲む時は、リアルタイムでナイアシンを消費していくので、補給していく必要があります。
「おつまみを食べないで、お酒ばっかり飲んでいると悪酔いするよ」と言われるメカニズムの一端はこんなことです。
マグロやカツオ、レバー類、そして大豆にもナイアシンは豊富です。
「今日は飲むぞ~!」という時のおつまみ選びは是非、この面々から。
そしてナイアシンの補給が追い付かず、二日酔いになった時は納豆汁を!
味噌&納豆のダブル大豆パワーで、不快感から速やかに脱出しましょう。
”イースト”とは”酵母”のこと
最後にイーストとイーストフード。
これは多くの意味で、一番誤解されている組み合わせに思います。
アルコール発酵する菌類の総称なので、ワイン酵母、ビール酵母、味噌酵母、醤油酵母、パン酵母など、用途に合わせて、最も適した酵母を選んで培養します。
このように”イースト”と呼べるものはたくさんあるのですが、私たちが日常的に”イースト”と呼んでいるのは”パン用の酵母”を指すことがほとんどだと思います。
パンに使う酵母は、果物や穀物についているものを何種類も合わせて使うので、その組み合わせで味が変わり、発酵の見極めにも、かなりの時間と職人技を必要とします。
しかし産業革命による工業技術の発達は、パン用酵母にもやってきました。
パン用酵母は、数ある酵母の中でもかなり選択培養され、大量生産が可能なものも出てきました。
これによって世界中のパン屋さんは重労働から解放され、私達は安く手軽に購入できるようになりました。
そしてこれはどんな酵母にも言えることですが、空気中に常在する菌の影響によって味や香りに変化が出てくることがあります。
最悪の場合、”発酵”ではなく”腐敗”してしまうこともあり、本来は扱いが非常に難しいのです。
そのため、短時間で一気に発酵が進み、かつ環境による影響を受けにくく、均一な仕上がりになる”大量生産用パン酵母”を作り出したわけです。
今でも天然酵母から一晩かけてパン種を起こすパン屋さんがいる一方、そんな誕生秘話?!が一般の方にも知れ渡るようになった昨今、業界大手でも”イースト”と表記するとイメージが良くないということで、”パン酵母”という表記に移行しつつあります。
使用しているものは変わっていなくても、さらに良いイメージにしたいのか”天然酵母”とまで表記しているケースも出てきて、混乱に拍車をかけているように思います。
石油は天然素材だから、石油から作るものも天然素材?!
確かにずっと元を辿れば”天然物から分離培養した酵母”です。
この理論でいくと、石油から作ったタール色素(青色1号とか黄色4号等)も天然素材ということになります。
食品における”天然”の定義が明確でないこともありますが、我々消費者がイメージする”天然もの”とはかけ離れていると思います。
一般に”天然酵母のパン”と聞いて思い浮かべるのは、果物や穀物から酵母を起こし、最低でも一晩(8時間~10時間)かけて発酵を進ませて作ったパンでしょう。
その時の気温や湿度によってふくらみ具合や味に若干のブレが出てくるのが自然な姿です。
ちなみに納豆は酵母ではなく”納豆菌”ですが、やはり発酵食品ですので、その経験からしても、いくら室(ムロと呼びます)の温度を一定にしていても、納豆菌の調子?!によって発酵具合は違います。
極端な話、一つの室の入口の近くか奥か・・・並べてある段の上か真ん中か下かでも変わってきますので、途中様子を見て場所を入れ替えることは日常です。
酵母も菌も”生き物”ですから、夏バテしたり寒さが苦手だったりそれぞれです。
”天然もの”を扱うというのは、このような手間がかかるのが当たり前なので、均一な商品を大量に供給しなくてはならない場合、向いてないのは明らかです。
とはいえ”天然酵母”と名乗るのはちょっと行きすぎかな?と個人的には思いますが、間違ってはいません。
犬はイーストの香りが好き
いくつかの酵母類は、犬が好む香りでもあることから、フードの食いつきを良くするためのトッピングや栄養強化のサプリメントにも入っていることがあります。
”ビール酵母”とか”大麦酵母”などと記載してあれば分かりやすいのですが、ただ”イースト”とだけの記載だとどうしても
『イースト⇒パン⇒危険』
という連想で心配になる方も・・・。
実際、発酵中のパンを犬が食べてしまう事故が起きることがあります。
(日本では稀ですが、調理台に前足を乗せやすい大型犬が多い海外ではたまに起こります)
犬がやたらとゲップしながら歩いていることに気づいたら、発酵中のパン種もなくなっていた・・・というパターンで発覚。
この時点ですぐに獣医さんの所へ駈け込めれば幸いです。犬の胃の中の温度は、パンの発酵に丁度良いため、早急に対処しないとどんどん発酵が進んで膨れ上がってしまいます。
そういう意味では、”危険”です。
しかし
イースト=アルコール発酵する酵母の総称
です。
”イースト”そのものが問題なのではありません。
ただ、紛らわしい物質として”イーストフード”というものがあります。
これは『イーストの餌』という意味で、成分的には
『イーストを短時間で爆発的に育てる化学肥料』
といったところでしょうか。
現在日本国内で『イーストフード』と一括表記できるものは16種類指定されています。
このうち1つだけを使用しても、数種類使用しても『イーストフード』とだけ表記すれば良いことになっていますが、平均3~5種類くらいを組み合わせています。
16種類のうち焼成カルシウムだけは天然原料ですが、あとは硫酸アンモニウムやグルコン酸カリウム等工業的に精製されたのものです。
化学肥料の三大成分『リン・カリウム・窒素』を農作物に与えるのと同じ発想でパン生地に加えます。
近年、安全性が議論されているのは、このイーストフードの方です。
机上計算では、イーストが食べきるし、そのあと高温で焼くから安全ということになっています。
しかし
・”化学肥料”を食べたイーストがどのような健康状態?になっているのか。
・イーストが”化学肥料”を代謝した後、どんな残渣が出るのか?
・それによって発酵したパン生地中の他の材料※との相性は?
(※例えば小麦の黒い成分は、製品になった時カビやゴミと間違われるので漂白する薬品。あるいは、ふんわりした食感は維持したいが、輸送・陳列中に形が崩れないように加えられる特殊な油など、均一な商品を大量に供給する場合ならではの成分)
残念ながら、そのへんのことを検証した確かな論文や資料は見当たりません。
これはイーストフードに限ったことではありませんが、急性症状が出ない限り、そういった検証はなかなかなされません。
昨今、グルテンや炭水化物が悪者扱いされることが増え、パンやご飯は肩身の狭い世の中です。
遥か古代から食べてきた小麦や大麦・ライ麦などに含まれるタンパク質であるグルテン。
そして炭水化物は、生命活動には欠かせない栄養素です。
それらが本当に数々の体調不良の真犯人なのでしょうか?
品種改良種や遺伝子組み換え、化学肥料に農薬、食品添加物・・・これらはたったこの50年に登場した新参者です。
決して新参者が全てダメだというつもりはありません。
ただ、イーストフードのように、あらゆる年齢層が頻繁に口にする可能性があるものについては、そろそろ検証が必要な時に来ているように思います。