2012年、アイルランドのリムリック大学医学部・外科チームのカルヴァン・コフィ教授は、腸間膜が小腸や大腸とつながる臓器だと発見しました。
腸間膜はこれまで、その名の通り腸の間にある膜で、小腸を腹壁に繋ぎ止めたり、臓器を支えるためのものと認識されてきました。
それが小腸や大腸とつながっている”膜”状の臓器だと発見され、ついに昨年コフィ教授は、その証拠を示す論文を医学誌ランセットで発表しました。
腸間膜は500年前に描かれた、あのダ・ヴィンチの解剖図でも見ることができます。
その頃から、存在は認識されていましたから、現代の解剖学の教科書にも描かれています。
ただ機能的には、まるで荷物の損傷を防ぐ”プチプチ”のような緩衝剤くらいにしか考えられていません。
しかし教授の論文によって、今年ついに最も古典的な解剖学研究書『人体の解剖学』(ヘンリー・グレイ著)を改訂することになりました。
Gray’s Anatomy(グレイの解剖学)の名で、世界中の医療関係者の教科書となってきた”解剖学の決定版”とも思われてきたこの本が改訂されるのは、実に158年ぶり。
この発見が、腹部全体の医療や健康管理に少なからず影響を与えるのは間違いないでしょう。
近年、人工知能とか宇宙開発とか、まるでアニメの世界の話かと思うようなことが現実になりつつあります。
そのような世相にあって、『そんなの常識』とか『すでに答えが出ていること』に疑問を投げかけるのは大変勇気がいります。
しかし何か問題が起きた時や行き詰まった時、一度基礎から見直すことも選択肢の一つに考えなければならないと思いました。
せわしない現代社会、結果を求められる時間はどんどん短くなり、先へ先へと物事はどんどん進みます。
その中にあって、当たり前と思われていることに時間を割くのは、一見の無駄に思えたり、時代に逆行しているようにも感じることもあります。
しかしコフィ教授の発見は『まだまだ見えていない真実はある』と勇気づけられる思いがしました。