一般に『腎臓病の食餌は徹底したミネラル管理』というのが定番だと思います。
もちろんミネラル管理も重要なのですが、ミネラル管理が必要となる前にできることがあります。
それは『質の高いタンパク質摂取とビタミンDの管理』
腎機能が低下
↓
ミネラルの代謝コントロールが悪くなる
↓
食餌のミネラル管理が必要
となるわけで、そもそも腎機能が保てていればミネラル管理は要りません。
一般的に腎臓病の食餌管理というと、タンパク質とミネラルの制限が鉄板。
しかし東洋医学的な考え方ではタンパク質や塩分(ナトリウム)を含めたミネラル制限は、あまりやりません。
どちらの考え方がいいというのではなく、状況に応じてどう選択するかです。
腎臓病が減らない理由
腎臓は東洋医学では生まれつき備わった『先天の元気』と食餌や生活習慣を積み重ねて得られる『後天の元気』を貯える所だと考えられています。
そのため例え生まれつき体が弱い・・ということがあっても適切な食餌などで挽回でき、長く健康に過ごせるのです。
もちろん加齢と共にある程度の機能低下は避けられませんが、これまでの腎臓病の主な発症原因であった感染症が制御されている(参照⇒前回のブログ)のに、減っていないのはなぜでしょう。
その原因に食餌の質の変化があると考えています。
原因1:ビタミンDの過剰
このブログでは、ビタミンやミネラルの過剰の問題をたびたび取り上げていますが、その中で腎臓に直接悪影響を与える物質としてビタミンDがあります。
参照ブログ⇒栄養素と免疫(ビタミンD編)
ビタミンDは免疫力維持にとても重要なビタミンなので、適正量摂取することは大切です。しかし大量生産するドライフードには、製造時の減損を見越して多めに添加します。
しかし脂溶性のビタミン類やミネラルは、それぞれが微妙なバランスを取って機能しており、水溶性の物質と違って、余ったからと言って簡単に排出されるものではありません。
ビタミンDも簡単に排出できないグループなので、徐々に蓄積し忘れた頃に影響が出ることがあります。
個体によって栄養素の吸収レベルは一律ではないので、何歳くらいから影響が出るかはまちまちですし、途中どの程度まで蓄積したかを観察できる方法がありません。
しかし膀胱炎や結石などを経験したら、一度フードのビタミンDの含有量を確認するといいかもしれません。
なぜならビタミンDはリンやカルシウムの吸収を高めるからです。
せっかく低リンのフードを使っていても、ビタミンDの量によっては台無しになります。
またカルシウムの吸収が増えすぎると、マグネシウムの排泄が進んでしまい、すると同時に低カリウムの状況を引き起こし・・・・とまあ、雪だるま式に血中ミネラルがメチャクチャになるのです。
「マグネシウムの排泄が進むなら、腎臓の管理にちょうどいいじゃない」と思うなかれ。
そんなに都合の良い量が排泄されるわけではないです。
そもそもいくら低リンのフードを与えていても、ビタミンDも制限されていないと、カルシウムやリンが腎臓・心臓・血管内で結晶化したものが付着し、重大な疾患を引き起こします。
かつて海外で『安全基準内だけど過剰なビタミンDを含有』したキャットフードで、慢性腎臓病が多発したことがあります。
殺鼠剤なみの高濃度ではない、安全なレベルとされていた量だったので、急性腎臓病には至らなかったとはいえ、重く捉えるべき事例だと思います。
しかし未だに『不足よりマシ』という考えがあり、最小量のビタミンDにしよう・・という考えが浸透していません。
参照ブログ⇒ネズミーランドvsビタミンD
原因2:質の悪いタンパク質
質の悪いタンパク質とは、摂取しても体を作る材料として使われる比率が低いタンパク質です。
そのような質の低いタンパク質は、いくら摂っても体のために使われない上、腎臓に重い負担をかけます。
なぜなら質の低いタンパク質は、消化・分解されると老廃物(尿素・リン・硫黄)が多く発生するのです。
そしてこの老廃物を腎臓が排出する時、アンモニアが発生します。
これが大問題なのです。
アンモニアは腎臓の細胞に強い毒性があるため、そういったタンパク質を食べるたびにダメージを与え続けることになるのです。
量の問題じゃなく、質の問題
つまりどんなタンパク質を使っているかが重要なのです。
腎機能の状態に合わせて、ある程度タンパク質の抑制が必要になる場合もありますが、その場合も
量=数字が低ければ良い・・というわけではないのです。
変な話、パッケージに記載してある『タンパク質量』というのは窒素量を測って、一定の係数をかけて算出しているので、窒素量が多ければ高く出ます。
ただ窒素の由来・・・例えば
・お肉由来の窒素か
・化学肥料をたっぷり吸った野菜の窒素か
・化学合成した窒素化合物か
・・というのは分かりません。
でも普通は、タンパク質が多ければ
「お肉たっぷり使っている!」
と受け止めてしまうと思います。
これからの食餌管理
栄養学では、栄養素の数字は重視しますが、素材の質について考慮することはありません。
しかしこれでは片手落ちの栄養管理になると考えています。
慢性腎臓病の治療に、食餌管理は不可欠ですが、まだまだ数字での管理が主流です。
「手作り食に踏み切るには勇気がいる」
と言う声はたびたび聞きますが、市販のフードで状況が改善されないなら、プロのアドヴァイスの下、手作り食に挑戦するのも一つの解決策だと思います。
(最近は獣医師でも手作り食に理解がある方もいるので)
猫でも手作り食にすることは可能です。
もちろん、病気になる前に食餌の改善に取り組めたら一番良いと思います。