大腸は排泄物製造所ではない
「大腸はバイ菌だらけ」
「ばっちい!」などというイメージでしょうか。
確かに生物の授業で、
「大腸は消化・栄養吸収の終わった物から、水分を吸収し便を作る」
というように教わりますね。
しかし今やその情報は過去のものとなっています。
大腸は多くの発酵細菌が集まり、体に有用な多くの化学物質を作り出している場所です。
ここの細菌叢のバランスによって、身体の調子だけでなく精神面にも影響するとさえ言われています。
大腸=大地の土壌
私たち人間も自身の細胞数より、そこに常在する細菌数の方が多く、細菌類の力なくして生きられません。
例えば皮膚の常在菌のお陰で、外部の刺激から守られています。
皮膚の造りや自分の免疫力だけでは守れないのです。
そして大腸には、全身の中でも最多の種類、最多の細菌数が存在しています。
ここでの複雑な細菌たちの活動によって、動物の全身状態は大きく左右します。
それはまるで大地のようで、我々動物はそこに生える植物のような関係に見えます。
つまり土壌の状態によって、元気がなくなったり、茎が弱くなって倒れかけたりすることがあるように、大腸の状態は全身を映す鏡のようです。
短鎖脂肪酸ビッグ3
大腸に住む細菌たちは、その動物が消化できなかったものを食べて活動します。
活動すれば、当然排泄物が出ます。
そしてその排泄物には、動物にとって重要な成分を多く含んでいます。
まさに究極のリサイクルですが、その重要な成分の一つに『短鎖脂肪酸』があります。
短鎖脂肪酸は、遅発性アレルギーの原因の一つとされている”腸管壁侵漏症候群”(リーキーガット症候群)抑制の重要なキーです。
短鎖脂肪酸は大腸内壁の細胞を整え、内毒素が血液に流入することを防ぐとされています。
この短鎖脂肪酸の中でも特に重要なのが、酪酸、酢酸、プロピオン酸です。
短鎖脂肪酸の中でも個性的な酪酸
当初バター(butyrum)から取れたので、butyric acid=酪酸(らくさん)と名付けられましたが、銀杏の悪臭の正体もこの酪酸です。
あと蒸れた靴下の匂いとか・・・。( ̄д ̄)
当然命名のきっかけになったバターの他チーズにも多く含まれ、犬が非常に好む匂いとも言えます。
(人間は”くさっ!”と感じることが多い匂いですが)
酢酸とプロピオン酸は血液に溶け込んで、肝臓や腎臓、筋肉、脳にまで運ばれ、それぞれの組織の細胞のエネルギー源となります。
しかし酪酸は大腸に居座り、大腸の主たるエネルギー源となります。
しかも非常に珍しいことに、血液に乗ることがなく、大腸内壁細胞にダイレクトに供給されます。
そして大腸内壁に必要な粘液や抗菌物質の放出を促しています。
近年増えているものの、決定的な治療がないクローン病や慢性的な大腸炎などは、この酪酸の不足から起こっていると考えられ、酪酸を産生する細菌を増やすことで治療できるのではないかと研究が進んでいます。
内臓疾患や感染症が否定された下痢はすべてアレルギーによるものか?
これは犬猫の世界にも言え、内臓疾患や感染症が否定された下痢などは、アレルギーと診断されることが多いですが、その中には大腸の酪酸不足から起きる大腸内壁の乱れが根本原因にあるかもしれません。
そういった場合、アレルギーをおさえる薬(例えばステロイドなど)を使っているだけでは、なかなか解決しません。
食物由来のアレルギーなら、それを外せば良い・・という考えもありますが、一つアレルギーが出ると、次々と他のアレルギー反応が出ることも少なくありません。
そんな時は、大腸内壁の乱れから内毒素が入り込んで過剰な反応や炎症を引き起こしている可能性を考えてみる必要があります。
花が咲かない(=体調が悪い)原因は、
①土壌(=大腸の細菌叢)が汚染されていたり、栄養不足ではないか?
②土壌の悪さによって根(大腸内壁)が問題を起こしたのか?
③機能的に問題を起こした根が、吸い上げてはいけないもの(内毒素)を吸い上げてしまったのか?
など辿っていく必要があります。
ちなみに大腸細菌叢の栄養は、最初に書いたように『消化できなかったもの』
つまりセルロースなどの食物繊維です。
食物繊維は便を形成するため・・・というより、むしろ細菌たちの栄養源として重要なのです。
そして食物繊維は炭水化物の一つ。
近年流行りの低炭水化物食(ローカーボ食)を犬猫にも取り入れようという方がいらっしゃいますが、程度が過ぎると腸内細菌叢の栄養源が失われ、大腸の健康、ひいては心身全体に影響します。
何事もほどほどがよろしいかと・・・。
続き⇒②食べ過ぎSTOP!プロピオン酸
関連ブログ⇒カロリー神話
関連ブログ②⇒米が穀物の中でもすごい訳②
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