連日新型コロナウィルスの報道が続いていますが、フランスから別のウィルス感染のニュースが入ってきました。
それはトマトブラウンラグースフルーツウィルス(ToBRFV:Tomato brown rugose fruit virus)です。
2014年にイスラエルで最初の異常が見られ、2015年にヨルダンでこのトマトに起こった異常が、新しいウィルスによるものだと確認されました。
するとあっという間にヨーロッパで広まり、2019年にはトマトの一大生産地であるイタリア、トルコ、スペイン、そしてイギリス、ドイツ、オランダなどでも感染が広がり、深刻な不作になった地域があります。
イタリアもシチリア島では、ウィルスの封じ込めと根絶に成功した模様ですが、感染ルートは、
・植物同士の接触
・人の手や農具による伝染
・感染した葉や茎、種子の残骸
・それらが落下した土壌
・ハチを始めとした昆虫が感染株の花粉を運んだことによる伝染
などが考えられています。
もちろんトマトのウィルスなので、人間や動物にはうつりませんが、実が黄色や茶色に変色し、表面にシワが出来てしまうので出荷できません。
ナス科の植物は食卓の常連
スタートはトマトの病気であるのは間違いないのですが、トマトはナス科。
ナスはもちろん、ジャガイモ、ピーマン、パプリカ、ししとう、トウガラシなどもナス科です。
当然同科の植物への感染は時間の問題と見られていましたが、早速トウガラシとタバコへの感染が確認されました。
(食べ物ではありませんが、タバコもまたナス科)
トマトとトウガラシと言えば、イタリアを始めたした地中海沿岸地域では、欠かせない食材です。
そこで他のナス科の植物への研究が早急に進められました。
メキシコで見つかった感染
するとナスとジャガイモに関しては、当初このウィルスを接種しても症状が出ませんでした。
ところがその直後、やはりトマトの被害が広がっていたメキシコで、ナスが感染するのが確認されました。
ヨーロッパとメキシコでは、海を隔て随分離れていると感じられますが、安定した品種管理をするため、『種』の出処は同じである場合が多いのです。
そして商業栽培用の種は、ウィルスやカビなどによる病気を防ぐため、種子消毒をしてから使用されることが多いのですが、今回のウィルスは通常の種子消毒では十分でない可能性が指摘されています。
地球上は新種だらけ
そもそも現在地球上で認識されている微生物は、3割程度と言われています。
つまりこの世に存在しているが、人間が出会っていない(認識していない)微生物が7割。
個人的には、1割~2割程度しか分かっていないのではないかと思っていますが、分かっていない、知られていない微生物の方がはるかに多いのは確かです。
つまりこの突然現れたように見えるトマトのウィルスも、ざっくり言うと
①実はかなり昔から存在していたが、見つかっていなかった
②問題を起こす症状が出ていなかったから気が付かなかった
③近縁のウィルスから変異して、問題を起こすようになった
という可能性が考えられますが、最近は遺伝子解析によって、変異の痕跡というのは割と追いかけやすい環境が整ってきているため、今の所③の可能性は少ないと思います。
となると①か②?
どちらにしろ、姿を現した理由があるはずです。
ウィルスは細菌類と違い『宿主』が必要です。
つまり『誰か』の細胞内に、住処が必要なのです。
細菌を宿主とする”ファージ”と呼ばれるものもありますが、時にこの存在が生物の進化をもたらすことは知られていますが、同時にある種の生物を壊滅させるほどの力があるのも事実。
今回のトマトのウィルス感染症の原因として『行き過ぎた人間都合の品種改良』も、一つの可能性ではないでしょうか。
・同じ大きさ、形に
・味が均一
というのはもちろん、長距離輸送を見据え
・つぶれにくい
・色が均一
・熟すスピードが同じ
などを目指すため、遺伝子組み換え品種の研究も盛んです。
より甘い、大きい、病気に強いなどの株を選んで増やしていく品種改良はともかく、遺伝子までいじるのはやりすぎです。
野菜や果物に限らず、多くの薬が植物から作られてきたのは、抗炎症作用や抗菌作用、抗酸化作用などを持つ成分がたくさんあるからです。
でもそれは元々、その植物が自分を病気や外敵から守る為に作る成分。
私たちはそれらの恩恵をどれほど受けてきたことでしょう。
それなのに人間たちの都合で勝手に遺伝子を切ったり貼ったりされたトマト。
全ての生物は遺伝子のサイズも数もおのおの決まっているので、人間の都合に合わせた分、自分を守る力が弱まったのかもしれません。
こういったことはトマトに限らず、多くの植物、動物でも起こっているのでしょう。
結局一番恐れなきゃいけないのは、ウィルスだの細菌だのではなく、”人間の欲”です。